お盆に連続して訪れた台風は、列島各所に多大な影響を与えました。その直前に訪れた岐阜県、飛騨地方の山中での渓流釣りフライフィッシング)の模様です。

 厳しい猛暑のなか、渇水と高水温もあり冷水性の渓流魚たちの活性はおそろしく低く、釣果としては芳しくなくなかったのですが、山あいに咲く花たちや吹き抜ける風にはどこか秋の気配を感じさせるものがありました。

■秋の気配漂う渓、過ぎゆく夏

足元にひっそりと咲くミズヒキの花に夏の終わりを感じます

 懐深い山並みが続く岐阜県北部の飛騨地方、富山県との県境に近い渓へと車を走らせました。

 お盆間近、渓へ向かう道中の山肌の緑は、どこかくすんだような色合いとなっています。申し合わせたように交互に鳴くミンミンゼミとツクツクボウシ。その声もどこか覇気がない印象です。この時期の里山の風物詩となってしまったオオハンゴンソウの黄色い群落が、次から次へと現れます。車を降りると、足元にはミズヒキがひっそりと咲いていました。

 標高を上げてもつきまとう蒸し暑さ。しかし、ときおり川に沿って吹く風にどこか秋の気配を感じます

■暑さとアブの猛攻に耐えつつ、苦行の釣り

同行者は日本の沢の定番スタイルですが、アブたちはタイツの上からも咬んできます

 流れに沿って刻まれた踏み跡を辿り入渓点へと向かいます。この時期の渓流釣りにどうしてもついて回る厄介な存在が「アブ(虻)」です。皮膚を切り裂き吸血するアブにはいくつか種類がありますが、なかでも大量発生して人間を覆ってしまうほどの数で襲ってくるのが、イヨシロオビアブ(メジロアブ、ウルル、オロロなど地方名も多い)です。よほど標高の高いところ以外は避けては通れない、これもまた真夏の渓流の風物詩でしょう。

 「そろそろ数が減ってきたかな」そう思っていると、気温の上昇とともにアブたちにあっという間に取り囲まれました。イエバエのような姿をしていますが、咬まれると鋭い痛みがあるうえ、その後痒みも伴います。場合によっては数日間から一週間程度、痒みと腫れに悩まされることも……。

 バグネットを被り長袖の上下を着ていますが、その分さらに暑さが堪えます。つい防御体制を緩めてしまうとその隙間を狙ってチクリ! 薄手の布の上からも咬まれるので、2枚以上重ね着したり、1枚なら厚手でゆとりのあるものがいいでしょう。

渋いなか釣れたイワナ。ドライフライは完全に浮くものより、半沈状態のパターンの方が反応が良かったです

 さて、肝心の釣りの方ですが、今ひとつ反応が良くありませんでした。渇水と高水温のせいで魚たちも夏バテなのでしょうか? 水位が低いおかげで魚影を確認するのは容易でしたが、その分かなり神経質な様子でした。フライを見つけて浮上してきますが、直前で見切ってUターンしていく魚が多かったです。まとわりつくアブたちに集中力を削がれ、暑さに体力を削られながらもなんとか数匹を釣り上げました。尺にわずかに届かないながら、なかなかの良型を引き寄せました。

 写真を撮ろうとしていると、パシャリ! 力強く身を翻して流れへと帰っていきました。