梅雨明け宣言とともに激しい暑さに見舞われています。長野県北部に在住する筆者ですが、昨年並みか、それ以上の暑さにぐったりしています。もちろん、県内でもさらに標高の高い場所に行けば涼しいのですが、新天地を求め、お隣である岐阜県の飛騨地方の渓流へフライフィッシングに出かけてきました。
■山から山、渓から渓へ 飛騨の釣り旅
岐阜県飛騨地方は山深く、山々の合間を縦横無尽に、まるで毛細血管のように数多の清流が流れています。険しい山もあれば、ゆるやかに起伏を繰り返す山塊もあります。右へ左へハンドルを切りながら、気づけば峠を越えて川の流れの向きが変わっていることに驚きながら、地形図で目星を付けていたポイントへと車を走らせました。
道中目にする緑濃き山あいの渓はどれも魅力的に見え、目的地に着くまでに何度も車を停めて、流れを凝視してしまいます。こうして、僕の“釣りをしてみたい川”リストは、どんどんと増えてしまっていきます。果たして、人生の竿納めまでにどれくらい消化できるのでしょうか……。
「1匹でも魚の顔を見ることができればいい」。はやる心を抑えながら歩き出そうとして、バックパックにリールが入っていないことに気づきました。そういえばランディングネットも忘れています……。暑さのせい? 年齢? きっと期待で上擦った気持ちのせいでしょう。気を引き締めて、まだ見ぬ流れに向かって進みました。
■夏空が似合う渓でイワナを狙う!
朝8時の段階で、気温はすでに25℃を表示していました。標高は約900m。緑みなぎる山々の上には夏空が広がっています。この日狙いを定めたのは、飛騨北部のとある川の支流、いくつもの堰堤に分断された小さな渓です。
途中の橋から流れを覗くと、敏感に気配を察したイワナが素早く身を隠しました。堰堤を越えてしばらくは開けた河原歩き。少しフライを流してみましたが、反応はありません。右手から入ってくる支流へと進みました。水温は13.4℃。ウェーディングパンツを通して伝わってくる水の冷たさが心地いいです。
比較的傾斜の緩い渓ですが、点在する岩によって流れに緩急のリズムが刻まれており、変化に富んでいます。枝を伸ばしたヤナギの下、そっとフライを漂わせると、素直にイワナが飛び出しました。白点と体側の朱点が印象的で健康的なイワナの姿が、透き通った水に煌めいています。その後も飽きない程度にイワナが水面を破って飛び出してくれました。ヤマメがいてもおかしくない雰囲気でしたが、流れに沿わせたフライには何も出てきませんでした。
堰堤をいくつか巻きながら釣り上がり、20cm後半のイワナが釣れたところで竿を納めました。薮に刻まれたわずかな踏み跡を辿って林道に上がると、あまりの蒸し暑さに顔をしかめました。まるでサウナ。サングラスが一瞬で曇ってしまいました。
夕方、温泉で汗を流して外に出ると、ヒグラシが涼しげな音色を奏でています。移動がてら、里を流れる川で“イブニング(夕マズメ)”を狙おうと思っていたのですが、夏の夕暮れを感じながらのドライブがあまりに気持ちよく、川を眺めるだけでこの日は終了してしまいました。