せっかく登山やハイキングに出かけるなら山頂からの絶景を見たいものだ。しかし、梅雨の時期はすっきりとしない天気の日が多く、天気予報サイトとにらめっこする時間が長くなる。天気がはっきりせず、景色を楽しめないからと行くのを躊躇してしまう人も多いだろう。今回は、梅雨の曇天模様で山頂からの眺望が期待できなくても楽しめる山の歩き方を紹介したい。

■梅雨は高山植物の開花の時期、曇り空でも足元は賑やか

 標高の高い山では6月頃に残雪期が終わり、草木が芽吹き始める。梅雨は高山植物が見頃を迎える時期でもあるのだ。登山道を足元に注意を向けながら歩いてみると、さまざまな花が咲いていることに気がつくはずだ。

足元にひっそりと咲いていた「ミツバオウレン」晴天なら気づかなかったかもしれない

 快晴でスカッとした天候の時は、山頂からの眺望を早く見たいあまり気が急いて、登山道の周辺に注意を向ける余裕はあまりないと思うが、空がすっきりとしていない時こそ歩くペースを落とし、宝探しのように登山道沿いの植物を観察しながら歩いてほしい。

小さい花が垂れ下がるように咲く「ウラジロヨウラク」

 登山道で発見できるのは高山植物の花々だけではない。木や岩にびっしりと生える「苔」も魅力的だ。

木にびっしりと生えた「スギゴケ」
北八ヶ岳では綺麗な苔の群生が多かった

 日本は世界でも有数の苔の豊かな国で、世界の苔の一割、およそ1,900種が生息するといわれている。

 自然豊かな山岳地帯の樹林帯では木々の下に苔の絨毯が広がり、さまざまな苔が群生している光景を楽しめるだろう。曇天模様だからこそじっくりと目を向けやすいミクロの世界。これまで気づかずに通り過ぎていた高山植物や苔の素晴らしさを感じることができる。 

■霧やもやの中だからこその幻想的な風景、一瞬の絶景

苗場山。雲の中の湿原で見た幻想的な風景

 霧やもやの中にいるからこそ見ることのできる景色もある。筆者が新潟と長野の県境に位置する苗場山(なえばさん)に出かけた時のこと。予報は晴れだったが、山頂に近づくにつれ辺り一面真っ白な世界に。見えるのは自分の歩く木道と、周囲の緑豊かな草原と群生するワタスゲのみ。その幻想的な光景は「来てよかった」と心底思えた瞬間だった。

 霧やもやは時にダイナミックな風景を見せてくれることもある。真っ白な中を歩いていると一瞬の晴れ間に青空が覗き、山が姿を見せることがある。

 短時間ではあるが、そうした瞬間にのぞく空と山容のコントラストは素晴らしく、快晴では見ることのできない絶景である。

真っ白な世界を歩いていたのに突然視界が開け、苗場山を望むことができた

 晴れた日に眺望を楽しむのはもちろん最高だが、かえってアクセントとなり、絶景を生み出すこともある。そんな一瞬しか見ることのできない景色に出会えるのも、梅雨時期に山へ出かけたご褒美といえるだろう。

長野県の常念岳山頂を目指す途中、雲が抜けた瞬間