■曇りや雨でも楽しめる、散策路のさまざまな高山植物
そんな「森」の区画をめぐっていると、いくつもの高山植物と出合うことができるのだから楽しくないわけがない。中には希少なものも多く、北八ヶ岳の環境の素晴らしさと厳しさの両面を実感することができるだろう。
そこで、梅雨入り直前のこの季節から初夏にかけて見ることができるいくつかの植物を紹介したい。
ニュウから中山峠に向かう山道に沿っては、イワカガミがびっしりだ。美しいピンクの花を、やや首を傾げて下に向けており、葉には鋸歯があるのが特徴。これに対してコイワカガミは横を向き、葉は丸いとされる。光沢のある葉を鏡に見立てたことから「カガミ」という言葉がもちいられた。なんとも洒落たネーミングだ。
コミヤマカタバミのミヤマは「深山」を意味しており、その名の通り、山深い亜高山帯の樹林で見られる。特徴的なのは、ハートの形をした葉だろう。ところによってはレッドデータの希少な植物でもあるけれど、ここまで歩いてきたハイカーは、その姿を間近で見ることができる。
シラビソやオオシラビソといった亜高山帯の針葉樹林に生育するオサバグサ。分布地のほとんどでレッドデータであるものの、八ヶ岳では多く見られる。薄暗い樹林を好むようで、シダのような葉が印象的。コケに覆われた岩にすっと立つオサバグサがいい感じで、思わずシャッターを切る。
針葉樹のツガ(栂)に似た葉をもち、サクラ色の花をつけることが、その名の由来といいうツガザクラ。岩場などにしがみつくようにしている姿が愛おしく感じる。雷鳥の好物らしいけれど、幸か不幸か八ヶ岳に雷鳥は、いない。
ということで、いずれも亜高山帯の深い山で育つ高山植物たちばかりであり、すべて登山道に沿って咲く花なのが嬉しい。じっくり鑑賞していると時間がいくらあっても足りない。ときにはピークハントではなく、植物や森の雰囲気そのものを楽しむのもいいものだ。
そんなゆとりのある山歩きを、ここ北八ヶ岳の原生林で楽しんでみてはいかがだろうか。
なお、森だからといってどこでも足を踏み入れてよいわけではない。こうして毎年のように楽しませてくれる植生ひいては森そのものの保護を念頭に、登山道や散策路からはずれないように歩こう。
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【参考書】白駒荘や麦草ヒュッテで購入できる「北八ヶ岳 コケ図鑑」