低いとはいっても、山は山。もちろん絶景だってある。アルプスのような巨大山塊を間近に望むような迫力のある風景ではないけれど、麓の町の様子を眺めたり、どこまでも続く低山の山並みや海岸線の風景など、低山には低山ならではの展望がある。

 とくに町中を縫うように蛇行する川の風景が好きで、日本各地の低山を歩きながら、そういう山を書き留めている。季節は夏から秋に移るタイミングがいい。というのは、暑くて強い太陽の陽射しを受けた水面が真っ青になったり、川に接する段丘や山林の色付きが緑から黄や紅に変化し始めたり、空気が澄んできて遠くまで見晴らせたりと、2つの季節の良さも感じられるから。

 そんなわけで、今回は晩夏から秋にかけて眺めたい川の絶景を選んでみたい。福島の蒲生岳と只見川は熟練者向けの少しハードな山だけれど、とにかく絶景中の絶景だ。

■【熟練者におすすめ】福島県只見町の「会津のマッターホルン」と只見川

会津のマッターホルンこと蒲生岳の雄姿。ほぼ直登する急な道のり

 福島県の只見町は、会津地方のなかでも西端に位置する山深い地域にある。県境を接するのは新潟県の三条市や魚沼市で、太平洋側の県でありながら日本海の方が近い。気候的にもその影響が大きく、日本でも屈指の豪雪地帯だ。それだけに水が豊かで、雪解け後の夏は緑が麗しく、秋は鮮やかな紅葉に染まる。ただし、季節の移ろいはとても早い。

 蒲生岳は、そんな只見町を代表する山のひとつだ。せりあがるような姿から「会津のマッターホルン」の異名をもち、近隣の登山者から親しまれている。たしかにその山容は見事な三角形をしていて、角度によっては鋭さが増す。麓の駐車場から見上げるとなかなかの迫力で、これからあの山頂まで登るのかと思うだけでワクワクしてくる。

比較的歩きやすい露岩帯とザレて滑りやすい場所が混在するため、油断は禁物
固定されたロープがあちこちにある。頼りきらず、あくまで補助として

 人気の山だけに踏み跡は明瞭で、登山道はわかりやすい。しかしながら、かなりの急坂を進むことになるので覚悟をしておこう。なにしろ固定されたロープがたびたび登場するし、露岩した部分は風雨に削られてザラザラしているから滑りやすい。登山靴などの装備と、こうした岩場の難路を登った経験がなければ、ちょっと怯んでしまうかもしれない。

 とはいえ、手がかり足がかりがちゃんとあるから、三点支持(両手と両足のうち、地面に接する3か所以外の1か所だけ動かす方法)で確実に登っていこう。その先に、只見川の絶景が待っている。