暑さの厳しい真夏は、意外と花に集まる虫は多くない。そもそも、真夏に咲く花が多くはないからだ。ところが、秋になるとまた花が多く咲き出し、そこにたくさんの虫が集まってくる。秋の花壇は絶好の虫観察スポットとなるのだ。

 9〜10月頃に花壇に集まる虫で注目したいのが、「セセリチョウ」だ。名前の通り、セセリチョウは「チョウ」なのだが、その姿を見て「ガ」だと思う人も多いだろう。

 というのも、セセリチョウは”一般的なイメージのチョウとは異なる特徴”をたくさん持つからだ。そもそも、チョウとガは一体どうやって区別されているのだろうか?

 というわけで、今回はガとチョウの区別の仕方を整理しつつ、セセリチョウの観察の面白さを解説していこう。

■セセリチョウは「ガ」に見える

 あなたは「チョウ」に対して、どんなイメージを持っているだろうか?

 一般的なチョウのイメージというと、以下のような特徴があるのではないかと思う。

 

・明るく華やかな色味のはねをもつ

・花の蜜を吸う

・ひらひらと飛ぶ

・止まる時にははねを閉じる

 

 例えば、「アゲハチョウ」は、チョウをイメージさせるもっとも代表的なもののひとつではないかと思う。

チョウのイメージを代表するアゲハチョウ

 一方、セセリチョウは先ほど挙げた特徴も一部持っているが、それとは異なる特徴も多く持っている。

 

・はねが地味なものが多い

・胴体が太い

・飛び方が高速かつ直線的

地味な姿のものが多いセセリチョウ

 セセリチョウは、一般的なチョウのイメージとはかなりのギャップがある。そのため、「ガ」だと思われてしまうことが多いのだ。

■セセリチョウが「ガ」に見える理由

 セセリチョウは「チョウ目」という分類グループに属する昆虫だ。「チョウ目」には、ガとチョウが属し、30以上の上科からなる。そのうち「アゲハチョウ上科」「シャクガモドキ上科」「セセリチョウ上科」という、3上科に属する虫たちのみが「チョウ」とされる。それ以外の上科に属する虫たちは、すべて「ガ」だ。

 日本ではチョウ目に含まれる種は6,000種ほどが知られているが、そのうちチョウは250種ほど。そのため、ガはチョウに比べて実に多様な姿や習性を持っているのだ。なお、チョウとガは形態的特徴から分類されているわけだが、生物学的に明確な違いはない、とされている。

 ここまでの内容を踏まえて、セセリチョウが「ガ」に見える理由を考えてみたい。

 アゲハチョウ、モンシロチョウ、シジミチョウなど一般的な「チョウ」のイメージを持つ虫たちが含まれるのは「アゲハチョウ上科」である。つまり、チョウのイメージはアゲハチョウ上科に含まれる特徴を多く引き継いでいると思われる。

 そのため、アゲハチョウ上科と重ならない特徴を”ガっぽい”と感じてしまう。だからセセリチョウ上科に属するチョウは「ガ」のように感じられるのだ。

 ちなみに、英語ではセセリチョウを「skippers」と呼ぶが、これは「moth=ガ」にも「butterfly=チョウ」にも含まれない意味合いで使われる。