真夏はちょっと低い山から足が遠のく。
都市生活とそう変わらない気温の中、低山を歩くことの山道はなかなかしんどい。風があればいいけれど、無風の山中は、まるでサウナに閉じ込められたかのようにさえ感じる。汗でぐちゃぐちゃになったまま行動するから、もちろん“ととのう”はずもない。渓谷などの水辺を歩いたり、涼を求めて休憩できる茶屋に寄り道できるコースなら、夏場の低山も悪くはないのだけれど。
そんなとき、ぼくは決まって標高の高いところにある高原や湿原に出かける。「夏が来れば思い出す~♪」の尾瀬もいいし、エアコンを連想する同世代の人もいるであろう霧ヶ峰など、暑さを忘れさせてくれる高層湿原が気分だ。特に、北アルプスも富士山も眺められる長野県の霧ヶ峰はお気に入りで、もう何度も歩いている。
■霧ヶ峰という名の山はない!?
霧ヶ峰という名の「山」は、実は存在しない。天然記念物に指定されている3つの湿原(八島ヶ原湿原、車山湿原、踊場湿原)と、それらをぐるりと取り囲む外輪山(男女倉山、蝶々深山、ガボッチョなど)とで構成される広域な台地のことを指す。美しく穏やかな風景が広がるこの一帯は、火山活動の賜物だったりするのだ。
最高地点は1,925mの主峰・車山。霧ヶ峰は深田久弥の日本百名山に選ばれてもいて、山頂からはほかの38座もの“深田百名山”を眺めることができるというから驚きである。ぼくは20と少々は数えられたものの、あとは遠すぎてよく見えなかった。双眼鏡、必須かも。
歩いて登る場合、霧ヶ峰最高地点の車山までは麓の駐車場から40分ほどで登れるのだから、人気なのは当然のことだろう。
特に、山頂に鎮座する車山神社の前は絶景中の絶景として知られ、お詣りついでに絶景ハントに訪れる人が絶えない。諏訪信仰の証しである四本の御柱に囲まれた社は荘厳そのもので、青空の元でも、霧の中でも、なんだか異世界な雰囲気を漂わせている。