■イタリアで最も重要な「種子林」に指定された松林
涼しい木陰の登山ルートを快適に歩いて行くと、登山道の両脇にブルーベリーやラズベリーなど野生のベリー類がたわわに実っているのを見つけた。自然と手が伸び、ラズベリーの実を1つ摘んで冷たい小川の水で洗い流し、口に放り込む。フレッシュな甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、なんとも言えない幸福感に包まれる。
さらに道を進んで行くと、今度は道端の草花に群がる色とりどりの蝶々に出会った。なんでもこのエリアには1,100種類に及ぶ蝶と、少なくとも110種の多様な甲虫が生息しているのだそうだ。写真を撮っていると、1匹の蝶がひらひらと飛んできて私の帽子の上に停まった。小さな虫たちも安心して生きられる環境がしっかりと守られているんだな、と実感する。
昆虫類や野生動物はもちろんだが、このエリアでは植物も厳格に保護されている。イタリアのアルプスでは針葉樹の森を見ることは珍しいが、このアヴィック山には「ウンチナータ」と呼ばれる独特なアルプスの松が生息しており、国の重要「種子林」として守られている。日本ではモンタナマツと呼ばれているこの松は、硬くて大きな岩場の隙間で成長し、根の部分が独特なカーブを描いているものもある。険しい岩だらけの崖にしがみつくように生えている松の木の姿は、ここでしか見られない自然風景だ。