イタリア・アルプスの山を歩いていると、「陸続き」を肌で感じる登山道がたくさんあることに気が付く。マッターホルン周辺ならスイス、モンブランならフランス、ドロミティ山塊ならオーストリアと国境を接している山道がいくつかあり、雪に閉ざされる冬場を除けば歩いて国境を越えることができる。

 救助犬として名高い「セント・バーナード」で有名なサン・ベルナルド(セント・バーナードのイタリア語読み)峠は、中でもその歴史の古さで広く知られる峠道だ。サン・ベルナルド峠には、スイスと国境を接するグランデ(大)・サン・ベルナルドとフランス国境にあるピッコロ(小)・サン・ベルナルドの2つの峠があるが、今回はフランスに歩いて入国できるピッコロ・サン・ベルナルド峠をご紹介する。

モンブランの南麓にあるラ・トゥイールの村からフランス国境の峠までは車で約20分
車道の横には、広大な自然とイタリアのヴァッレ・ダオスタ州ーフランスのサヴォア県を結ぶ古の峠道がある。標高は2,188m
麓の村ラ・トゥイールからピッコロ・サン・ベルナルド峠までの距離は国道26号線に沿っ て約13km。健脚なら徒歩で行くこともできる

■ヴェルネイ湖近くに車を停め、徒歩でフランスへ

 ラ・トゥイールの村から車で約20分、くねくねと続く登り坂の国道26号線を走って行く。峠の手前にあるヴェルネイ湖の周辺で車を停め、そこから徒歩で最後の坂を登り切ると、坂の頂上には緑豊かな平野が広がっていた。草原の真ん中には、硬い土と石でできた真っ直ぐな一本道があり、この道を歩いていけば30分もかからずにフランス国内に入ることができてしまう。ヨーロッパが一つの大陸であり、陸続きであればどこへでも歩いて行くことができるのだという事実を肌で感じる瞬間だ。

 この道が古代ローマ時代、あるいはそれ以前の先史時代から使われていた道だということは、現地の資料館で初めて知った。現在国道が通っている周囲には、鉄器時代のものと言われるストーンサークルの跡も残っている。古の人々も、この道を踏み締めて山を越え、未知なる世界へと足を踏み入れて行ったのだ、と想像すると、とてつもない感動を覚える。丈夫な脚とピッタリ合った靴さえあれば、どこへだって歩いて行ける。そんな気持ちになってくる。

峠の頂上の野原にまっすぐ延びた道。周囲には、イタリア側、フランス側の双方にバールや土産物屋、レストランなど数軒の店が集まっている