■地図読みのやり方<実践編>

 座学のあとは、いよいよ実践編に突入。実際にアポイ岳に登りながら、地図読みのノウハウを教わる。アポイ岳の登山ルートである「アポイ岳ジオパークビジターセンター」から「アポイ岳山頂」までの前半部分の登山道は、「トラバース」と呼ばれる移動をメインに設計されている。

 トラバースとは、斜面を横切って移動すること。地形図上では、等高線に沿うように歩くことになり、実際は登り斜面と下り斜面(崖)に挟まれたところを進むイメージだ。

地形図上と現実世界のトラバースの様子を比較。緑線は登山道を示す(撮影:佐野春佳)

 トラバースしながらチェックポイントである避難小屋を目指して進み、到着したところで地形図と景色を一致させる作業を行った。

 目の前の風景を観察し、自分が向いている方向を確認する。このとき太平洋が見えたため、地形図上では海が描かれている方向を向いていることがわかる。

 また、避難小屋の地点からは川の流水音が聞こえた。川は見えないが、地形図を確認すると、音源は「コトニ川」である可能性が高い。

海が見えるため、地形図からは南西の方角を見ていることがわかる。また、地形図から、水音はコトニ川によるものと推測できる(撮影:佐野春佳)

 反対側を向くと山が見える。なお、地形図上では等高線の間隔が狭いため、この先は急斜面を登ることが予想される。

避難小屋から見た景色(黄矢印の方を向いている)。これから尾根(赤線)を登る(撮影:佐野春佳)

 実際に尾根を登っていくと、予想通り急勾配の斜面が現れた。逆に等高線の間隔が広いと、緩くなだらかな斜面となる。

等高線の間隔が密であるほど急斜面になる(青丸)。一方、間隔が広いと緩くなだらかになる(緑丸)(撮影:佐野春佳)

 急斜面を登りきり、無事に登頂。GPSを一切使用せず、紙の地図だけで登頂した達成感は大きい。

GPSを使わず、紙の地図だけで登頂した達成感は大きい(撮影:佐野春佳)

 下山は、太平洋に向かって尾根を下るルートを選択。2万5000分の1スケールの地形図では太平洋は描かれていないため、広域地図で確認する。

 このころになると、地図読みにも少し慣れ、進行方向に描かれている等高線の様子から、急斜面を下りるのかと予想できるようになった。傾斜のきつい下り道が苦手な筆者は、両手が使えるようにカメラをバックパックにしまった。

 実際に歩いていくと、想定通り急な下り坂が現れたが、事前に下り斜面対応の準備をしていたおかげで、慌てずに済んだ。

写真ではわかりにくいが、傾斜の大きい斜面を下っている(赤線は尾根)(撮影:佐野春佳)

 アポイ岳山頂から太平洋に向かって尾根を下りる途中、ヤマタロウさんから「ここは地形図上のどこでしょう。また、標高は何メートルでしょう」という問題が出された。ヒントは地形の特徴と等高線だ。

アポイ岳から太平洋方面に尾根を下っていることは間違いないのだが、地形図上ではどこにあたるのだろうか(撮影:佐野春佳)

 これまで歩いてきた道と今いる場所を観察すると、下記の特徴に気がついた。

・下りてきた道は、両手を使うような「急斜面」であった
・目の前の道は、手を使わなくても進める「緩やかな斜面」である

 つまり、地形図上において、歩いてきた尾根のライン上で等高線の間隔が「狭い→広い」に変化している場所を探すことで、現在地が導き出せることがわかった。

 現在地がわかれば標高もわかる。地図を確認して、一番近くにある標高と現在地までの間に等高線が何本あるかを数えれば、あとは簡単な計算をするだけだ。

 具体的な計算手順は下記の通り。

1. 地形図で下記のポイントを確認する。
 ・一番近くにある標高は、「593m(約590mとする)」
 ・590m地点と現在地の間にある等高線は「3本」
2. 等高線の間隔は10mおきなので、[ 590m+(3×10m)= 620m ]と計算できる

 したがって、現在地の標高はおよそ620mとわかる。

赤丸が写真の場所であり、等高線を数えると約620mと推理できる(撮影:佐野春佳)

 今回は「登山口」の看板やロープがあるためわかりやすかったが、場所によってはロープなどがないことも多く、進むべき道を見落としてしまうため注意が必要だ。

 筆者が現在地の特定で悩んでいると、「自分がどこを歩いているのかを常に意識しておくことが大切」とアドバイスをいただいた。

 「ただなんとなく歩いているだけでは、確認すべき分岐ポイントや重要な地形を見逃してしまう」という指摘には耳が痛いが、この点を意識するだけでも道迷いのリスクは大幅に低くなるはずだ。