■白山での感動ストーリー、ベトナム人留学生との温かい出会い

旅行者や留学生、日本に長く暮らす人など、外国人登山者といっても今や境遇はそれぞれ(写真はイメージです)

 日本百名山の一つ「白山」で出会った外国人女性とのエピソードである。

 「白山」は石川、福井、岐阜の3県にまたがる山で、標高2,702mの最高峰「御前峰」を中心に構成された峰々の総称である。

 10月中旬、白山では朝から冷たい雨が降っていた。筆者たちは前日のうちに登頂し、その日は下山するだけだったので、宿泊に利用していた避難小屋でコーヒーを飲みながら、のんびりと朝食を楽しんでいた。

避難小屋での朝食(撮影:兎山 花)
雨の室堂ビジターセンター(撮影:兎山 花)

 窓から休憩中の男女の声が聞こえてきた。しばらくすると外は静かになり、筆者たちは荷物を片付けながら下山準備を進めていた。ふと窓の外を眺めると、先ほどの女性が1人で雨の中に立っている。「なぜ中に入って来ないんだろう、私たちと一緒に休憩するのが嫌なのかな」、ボソッと筆者は呟く。

 しばらく経ってようやく小屋の扉が開き、先ほどの女性が顔を覗かせた。

 「ココデ休憩デキマスカ?」、彼女は片言の日本語で私たちに話しかける。友人が手招きしながら「どうぞ、どうぞ! 外は寒かったでしょう。散らかっていますが、中に入って休んでください」と快く招き入れた。

 「イクラデスカ?」

 筆者たち4人は顔を見合わせた。彼女は避難小屋が有料だと勘違いして、中に入れなかったのだ。友人が「ここは誰でも利用できる小屋だから。そこは寒いから靴を脱いで上がっておいで」と伝えるが、彼女は「ヌレルカラ」と遠慮して、土間のベンチに腰掛けた。

 防寒着や雨具を着ているものの、全身ずぶ濡れで震えている。

 友人はすぐにお湯を沸かし、甘いコーヒーとカイロを彼女に手渡した。彼女は何度も「アリガトウゴザイマス」と頭を下げ、紙コップを両手で包み込みながら、ゆっくりと飲み始めた。少し元気になった彼女は、片言の日本語で経緯を話してくれた。

 彼女は岐阜県に住むベトナム人留学生。素敵な山だと友人男性に誘われて登ってきたものの、思っていた以上にハードな山で、さらに雨まで降ってきた。これ以上は無理だと思い、小屋の前で待機することにしたそうだが、友人男性は一向に戻ってこない。寒さに耐えかね、お金がかかっても仕方がないと、意を決して小屋を覗いたそうだ。

 勇気を出して小屋を覗いてよかった、温かいもてなしにとても感謝していると彼女は話してくれた。それを聞いて「私たちと一緒に休憩するのが嫌なのかな」と一瞬でも思った自分が恥ずかしくなる。友人の男性が戻ってくるまで小屋で待つようにと念を押し、筆者たちは彼女を1人小屋に残して下山を始めた。

 初めての白山、途中で雨に降られ、登頂もできず彼女にとって辛い体験となってしまったが、晴天の白山は本当に美しい。これに懲りずいつかまた再挑戦してほしいと心から思った。

■外国人登山者が増えた日本の山

 昨年の夏は、外国人登山者のTVニュースやネット記事を多く目にした。その多くが批判的な内容ばかりであったが、そんな登山者たちばかりではない。日本の山に興味をもち、装備をしっかり整えて山に登っている外国人もたくさんいる。そして、今後も多くの外国人登山者と出会うであろう。「彼ら、彼女たちが安全に山を楽しみ、自国に戻った後、日本の山は良かったと思ってもらえるように、私たち日本人ができることは何だろうか」と筆者は思う。