■伊予大洲駅から肱川沿いを伊予灘へ向かう

川沿いをゆっくり走行する「伊予灘ものがたり」(乗車日2022年12月11日)

 伊予大洲駅を出発すると「伊予灘ものがたり」は、伊予灘を目指し肱川(ひじかわ)沿いを走っていく。車窓からは川の緩やかな流れと、沿線住民による“おもてなし”が見られる。通過する駅や沿線沿いの民家や踏切で、登下校中の学生が列車に向かって手を振ってくれるのだ。最初は照れくさそうにしていた乗車客の年配者も次第に笑顔になり、最後の方は車内の誰よりも大きく手を振っていたのが印象的だった。川沿いを川の緩やかな流れのようにゆったりと進んでいくと、いよいよ伊予灘の河口付近に近づく。

お土産で配られたみかん(乗車日2022年12月11日)
途中の五郎駅では、狸の格好をして歓迎してくれた(写真提供:JR四国)

■伊予灘沿いをゆったりと走る「伊予灘ものがたり」

夕刻の伊予灘をゆったりと走る(乗車日2022年12月11日)

 列車は伊予長浜駅を通過したあと、ついに伊予灘沿いを走っていく。伊予灘は穏やかな波で、天気が良ければ、瀬戸内海の島々を眺望できる。「伊予灘ものがたり」は通常の列車よりスロー走行であることに加え、絶景スポットでは停車して、乗客が景色を堪能できるように列車の速度を調整してくれる。また、カウンター式の座席(席が車窓に向いている)で景色を堪能できるのも特別な時間と言える。

海に近い「下灘駅」に停車(乗車日2022年12月11日)
下灘駅では海を背景に列車「伊予灘ものがたり」を撮影できる(乗車日2022年12月11日)

 「伊予灘ものがたり」はその後、日本一海に近い駅として有名になった下灘駅に停車する。乗客はここで下車して記念写真を撮ることができる。昼間は青い瀬戸内海が広がっているが、最終便では夕日が伊予灘に沈む風景が目の前に広がる。

日中は青い空と伊予灘の風景を楽しめる(写真提供:JR四国)
下灘駅では停車して、多くの人が記念撮影をしていた(乗車日2022年12月11日)
春の時期、下灘駅周辺は桜に一面の菜の花が出現する

■終点の松山駅へ

 下灘駅を出る頃には辺りも暗くなり、車内では旅の終わりを少し寂しく思う話をしている人もちらほら出てきた。「松山に着いたら、道後温泉に入ろうね」、そんな話をしている人もいた。

車内では「伊予灘ものがたり」のマークがついた特製グラスで地ビールをいただける(乗車日2022年12月11日)
「伊予灘ものがたり」の発着駅となっているJR松山駅。道後温泉までは路面電車で約25分(乗車日2022年12月11日)

 筆者は列車内でアテンダントが話してくれた伊予長浜の町に興味を抱き、後日実際に訪れてみた。坂本龍馬が脱藩した時の四国最後の宿泊地として知られ、昔ながらの町家が並ぶ風光明媚な街並みは筆者にとって新鮮な旅となった。

 観光列車「伊予灘ものがたり」は、車窓からの美しい景色、沿線住民のおもてなしに加え、新たな旅へのきっかけにもなる列車だ。いつもとは違った鉄道旅が体験できることは間違いない。四国旅行で訪れる際は、ぜひとも乗ってほしい列車である。

みかんと特製タオルと観光マップが乗客に配られる(乗車日2022年12月11日)
アテンダントが列車内で説明してくれた現役で動く最古の可動橋「長浜大橋」を後日訪れてみた