■いざ出発! 親切な標識に導かれて
さて、県道93号線を雨川沿いに田口峠方面へ車を走らせ、砂防と水源として利用されている「雨川ダム」の流れ込み部分に架かる橋を渡ると、林道ゲートがあります。ご丁寧に“海岸線から一番遠い地点”へ誘うように標識も。標高約1,260mの榊山へと続く沢沿いのルート(別ルートもあり)の途中に目指す地点があります。ただし、「国土地理院」の地形図には登山道として記載されていないのでご注意ください。
まずは林道歩きです。一般車両は通行できませんが、正直拍子抜けするほど広く平らな道のりです。落ち葉が積もった道を約1.3km進むと沢を渡ります。橋は架かっていませんが、ひと跨ぎできる程度の幅の流れでした。
沢沿いの道は随分と崩壊が進んでおり、徐々に不明瞭になっていきます。斜面が崩れたり倒木が邪魔したりしていることもあり、ジグザグと幾度も(水量が少ないとはいえ)沢を渡るように進むので、山仕事で長靴に慣れている人であれば山歩きに適した長靴の方が無難かもしれません。それでも“海岸線から一番遠い地点”へのルートを示す標識が定期的に設置してあり、ルートを外さないように導いてくれます。
この時期の登山は山の木々が葉を落とし視界が開けているため、遠くまで見通しやすいのがメリットです。一方、落ち葉が山道を隠してしまうので不明瞭になりやすく、石車(※)にも十分に気をつけないといけません。道を外してしまいやすいことや滑りやすいリスクもあります。朝早くは凍結もありますし、日没も早いので行動に適した時間は想像以上に限られます。
※いしぐるま:不安定な石に足を置いてバランスを崩して転倒したり、足を挫いたりすること。
■荒れた沢を詰める! 始まりの一滴、その先に
やがて沢が二股に分かれるので右股へ。ここから先は道と呼べるようなものではなく、踏み跡のわずかでも歩きやすい場所を辿ります。かろうじて日の光が届くような沢床、行く手を阻む倒木を潜り、乗り越えて行く沢登りルートです。
取材時、基本的には水の流れのほとんどない沢でしたが、芯には落ち葉に隠れて水が溜まっているところも多くありました。季節やタイミングによっては濡れたり、滑りやすい足元に苦戦することもあるでしょう。
いよいよ沢の最後の一滴が尽きました。海から一番遠いところへ向けて、始まりの雫でもあります。ここから流れ出した水は千曲川、日本一長い信濃川の一部としてやがて新潟の海に注ぎます。そう思うと感慨深いものがあります。ひと登りすると傾斜が緩くなり、開けた地形に取り囲まれるような空間です。明るい森の中を見渡すと、唐突に人工物が視界に飛び込んできました。そこに、“海岸線から一番遠い地点”標識がポツリと佇んでいました。標識がなければ気にもしないような、これといった特徴のない場所ですが、ひとまず目的地に到着です!
歩き出しからの距離は約2.3kmで、登りの所要時間は1時間20分ほどでした。スタートからの標高差は、およそ280mです。
斜面のすぐ上には稜線があり、うっすらとした踏み跡がそのまま榊山へと繋がっています。しかし、ここまで手厚く導いてくれていた“海岸線から一番遠い地点”標識は、もうありません。非常に緩やかなアップダウンを繰り返し、緩やかに方向転換しながら到達するので、(地形図上では)簡単に辿り着きそうですが、意外とこれが曲者です。目印もまばらで朽ちてわかりづらいですし、踏み跡も非常に薄くさらに落ち葉が隠しています。とくに下りはGPS頼みにならざるを得ないくらい道迷いの可能性が高そうでした。(ネタバレして申し訳ないのですが)樹間からの見通しがいいこの季節ですら、ほとんど展望がありませんでした。
“日本で海岸線から一番遠い地点”に到達した場合、撮影した証拠写真と名前・日付・郵送先を伝えれば、佐久市観光協会から認定証を発行してもらえます。
佐久市観光協会『日本で海岸線から一番遠い地点』:https://www.city.saku.nagano.jp/kanko/spot/nature/umikaratoi.html
道と言うにはいささか難がある。野趣溢れるルートでした。季節に合った装備と登山届を提出することを忘れずに。登山経験のない方の安易な入山は避けた方がいいでしょう。つけ加えると、整備された登山道しか歩いていない人にはハードルが高い部分があるかもしれません。行程自体は短時間ですが、普段から沢登りやマイナーなルートを歩いている人向けだと感じました。当然クマ対策も万全に。荒涼とした初冬の景色、なかなか楽しい山歩きでした。