富山県、新潟県、岐阜県、長野県にまたがって連なる飛弾山脈を通称「北アルプス」と呼ぶ。山を歩くようになってから、いつかは行ってみたいと思っていたのが北アルプスだ。

 最高峰の奥穂高岳(おくほたかだけ・標高3,190m)を筆頭に3,000m級の山々が連なっている。1日では辿り着けない奥深い山も多く、難易度は高い。

 そんな北アルプスの入門として常念岳(じょうねんだけ・標高2,857m)を紹介する。常念岳は、長野県安曇野市と松本市にまたがる山で、日本百名山に選定されており、鎖場などもなく、初めての北アルプス登山におすすめの山だ。

■一ノ沢登山口からまず目指すのは常念乗越へ

 紹介するルートは「一ノ沢登山口」から、テント場のある「常念乗越(じょうねんのっこし)」を経由し、常念岳に登り、1泊してから翌日に下山するルートだ。

 常念岳山頂に向かう前に常念乗越でテントを張り、必要のないものはデポして(置いて)、身軽な状態で山頂を目指せる。

 テント場からの眺望もいいので、夕暮れや日の出の時間帯には特別な景色を楽しむことができる。泊まりでいく登山の醍醐味だ。

テント場の常念乗越からみる朝焼けに染まる槍ヶ岳(やりがたけ)。見事な景色を見ることができる。(撮影:山歩ヨウスケ)

 一ノ沢登山口は松本市からのアクセスもしやすく、道も舗装されているので運転もしやすい。登山口には第一駐車場と第二駐車場があり、60〜70台ほど駐車可能だが、土日は混み合うので早めの到着をおすすめする。

一ノ沢登山口にある小屋。登山届けはここで提出できる(撮影:山歩ヨウスケ)

 第一駐車場から20分ほど歩くと登山口があり、ここにはトイレがある他、登山届の提出ができる。登山口から山頂までは5〜6時間ほど、距離にすると約6.9km、標高差は1,500m以上になる。登山靴の靴ヒモの調整や忘れ物がないかなど、ここでしっかりと準備をしてから出発したい。

一ノ沢は水の透明度が高い。そして驚くほど冷たい(撮影:山歩ヨウスケ)

 登山道は、沢沿いを並走する樹林帯歩きになる。「胸突八丁(むなつきはっちょう)」までは傾斜はそこまで急ではないが、ひたすら登りが続く。眺望こそないが、一ノ沢は水が透き通っており、すごく魅力的な渓相だ。

 標高1,900m地点を過ぎたあたりから、徐々に木々が少なくなり、振り返ると眺望が楽しめるようになる。

標高1,900m付近。遠くには雲海が見える(撮影:山歩ヨウスケ)

 胸突八丁までくると、そこからは急な登りとなり、常念乗越までの道のりのなかでは頑張りどころだ。

 胸突八丁とは、物事の一番苦しい時や正念場のことを言い、まさに正念場だ。山登りにおいては、「胸が苦しくなるほどキツい」「胸にくっつくくらいの急な坂」であることの意味として使われる登山用語である。

胸突八丁からの登り階段。傾斜が急で、一気に標高を上げていく(撮影:山歩ヨウスケ)

 胸突八丁から40分ほど登ると「最終水場」に到着できる。名の通り最終の水場で、ここで水を補充することができる。最終水場は標高2,250m地点にあり、登山口から大量の水を背負わなくていいのもありがたい。

 今年は雨が少なく、渇水で水不足を呼びかけている山小屋が多く、水場が枯れていないか、山小屋で水の確保が可能か確認しておくことが必要だ。

10秒も触っていると痺れてくるほど冷たい(撮影:山歩ヨウスケ)

 ここまでの登りで疲労した身体に冷たい水が身に沁みる。自由に水を汲むことのできる水場はここが最後なので、ここで水筒は満タンにしておきたい。

 万が一足りなくなってしまった際には、常念乗越にある「常念小屋」で1Lの水を200円で販売してくれる。

 最終水場から常念乗越までは途中に第一ベンチ〜第三ベンチを経由して45分ほどで到着できる。常念乗越は稜線上にある分岐点で、ここまでくるとようやく北アルプスの主峰たちの景色が見える。

常念乗越から見る槍ヶ岳。圧巻の景色である(撮影:山歩ヨウスケ)

 常念乗越に建てられたのが常念小屋で、そのテント場を利用する。ここまで背負ってきたテントや寝袋など、山頂アタックに必要のないものをここに置いていく。

 テントや寝袋、食料など10kg以上の荷を背負ってきたが、ここからは身軽な状態で山頂を目指せる。まずは受付を済ませ、テントを設営する。

常念小屋のテント場。第一と第二があるが、第二の方が眺望がいい(撮影:山歩ヨウスケ)