全国各地にある珍しい風景を「珍百景」として紹介する「ナニコレ珍百景」というテレビ朝日のバラエティ番組がある。そのテレビ番組に2018年7月と2022年1月に2度も登場した、富山県のパワースポット「東山円筒分水槽(ひがしやまえんとうぶんすいそう)」は「日本一美しい円筒分水槽」と言われ、インスタ映えスポットとしても有名な農業用水利施設である。
■「剱岳」下山後に立ち寄った富山県のパワースポット
この夏、登山が趣味の筆者は剱岳の早月尾根に挑戦するため富山県を訪れた。1泊2日の登山を終えた翌日、せっかくなので富山県の観光でもしようかと思い、観光雑誌をめくっていると、ふと目に留まったのが魚津市にある「東山円筒分水槽」だ。
富山県は日本海に面し、三方を3,000m級の山が連なる北アルプスの立山連峰をはじめとする山々に囲まれている。「水田率」「チューリップの球根出荷率」が全国1位で、また「くすりの富山」としても有名である。
宿泊地の立山から田園地帯の中を魚津市に向けて北方向に車を走らせた。海に近づいてくると、内陸から海に向かって延びている山の稜線が見えてきた。あの稜線の向こうの海岸線のどこかに「親不知(おやしらず)」があるのだろうかと、「栂海新道(つがみしんどう)」の始点が頭に思い浮かぶ。栂海新道とは、いつか筆者が挑戦したいと思っている海抜0mの親不知から北アルプスの朝日岳(標高2,418m)までを結ぶ全長約27kmの縦走路である。立山より車で1時間ほどで東山円筒分水槽に到着した。
■東山円筒分水槽とは
東山円筒分水槽とは、片貝川の沿岸地域の水争いを解消するために作られた農業用水利施設である。農業用水利施設とは、水を農地に引くだけでなく、洪水による農業被害を防ぐための排水路としての役割も担っている。片貝川は急流河川として有名で、魚津市の東山地区は豪雨時には水害、夏期には水争いが絶えない地域であったが、この円筒分水槽の建設によって東山の3つの用水路、「天神野用水」「東山用水」「青柳用水」に公平に水が分配されるようになった。各地域の水田面積に応じて、上流からの水量に関係なく、多い時には多いなりに、少ない時には少ないなりに各地区に分水される。円筒形の水槽の直径は9.12mで、水の分配量は円周の長さに比例する。3つに分かれた用水路のうち2つは上下二段となっている。