■設備やトンネル内は使用されていた当時のまま
線路脇の設備やトンネル内は当時使用されていた状態のまま。鉄道ファンでなくても思わず興味を引かれるものが次々と現れるが、写真撮影の時間はスケジュールに考慮されているので、列を大きく外れない程度にカメラを向けることができる。解説は音声レシーバーを通して耳に入ってくるので、そこそこ自由度を持って歩けるのがうれしいところ。
また行く先々のトンネルでは演出用に信号機や坑内の照明が点灯されたり(逆に照明が消されて真っ暗になったり)、ショートフィルムの上映や、待避所を使った醤油の熟成展示なども見ることができる。こうしたトンネルの特性を生かしたアトラクションは、ここでしか体験できないものだ。
■観光名所「めがね橋」(碓氷第3橋梁)を眺める展望スポット
下り線の2号トンネルを抜けると碓氷川が流れる谷筋に沿って視界が開け、国内最大級のレンガ造りのアーチ橋「めがね橋」(碓氷第3橋梁)を望むことができる。上流側の上り線の橋梁と合わせて左右を眺めると、山のど真ん中にトンネルと橋をつないで鉄道の建設がされているのがよく分かるスポットだ。
アプト式の世界初の導入はドイツで、碓氷峠に採用が決定されたのはそのわずか8年後とかなり早い。橋梁などの石積み技術についても、のちの有楽町駅や新橋駅の建造に応用されているという。いかに当時の新しい技術が、碓氷線の開通のために用いられていたのかがわかるエピソードだ。
■峠越えの重要中継地点「旧熊ノ平駅」へ到着
さらに進んだ「旧熊ノ平駅」は廃線ウォークのほぼ中間点、アプトの道では折り返し点となる、峠越えの重要中継地だ。信越本線旧線の時代には上下線の交換設備や給水給炭所、電化後には変電所が建てられ、官舎には鉄道員が暮らしていた。
横川側に4つ、軽井沢側には3つのトンネルがあり、スイッチバックのための線路が複雑に敷設されている。列車事故や崩落などの痛ましい出来事もあった反面、「秋の夕日に 照る山もみじ」でお馴染みの童謡『紅葉(もみじ)』はここ熊ノ平の紅葉の美しさから作詞されたといわれている。300mほどの水平な中継地は、勾配の続く山中のちょっとしたオアシスのようでもある。新旧の鉄道の歴史と文化が積み重なる、峠越えを知るうえでは欠かせない場所だ。
峠の湯からは2時間ほど歩いてきた。この先軽井沢へは連続して10以上のトンネルを踏破していく。トイレも設置されているので、体をほぐしたり息を整えてから先へ進もう。