鉄道施設の中でも鉄橋やトンネルは特にワクワクするものである。日本の歌100選に選ばれている童謡「汽車ポッポ」の歌詞のクライマックスにも登場する。名作映画『スタンド・バイ・ミー』(1986年)で、子どもたちが鉄橋の上を走る姿を思い出す人もいるかもしれない。

 群馬県と長野県の県境にある碓氷峠にはそんな線路の上を歩くことができるツアーがあり、人気を博している。旧信越本線の廃線跡を歩く「廃線ウォーク」である。鉄道用のトンネルや橋梁など、普段は立ち入ることのできない場所を歩けるとあって、冒険心がくすぐられる。

かつて日本一の急勾配で名を馳せた横川ー軽井沢間を歩く「廃線ウォーク」

 旧信越本線の横川〜軽井沢間は距離にしてわずか11.2キロだが、標高差は550メートルもあり、最急勾配は66.7パーミル(1000分の66.7)という、幹線鉄道としては世界一の急勾配であった。鉄道史に残る難所として知られた碓氷峠だが、その車窓の美しさでも有名だった。線路のまわりには広葉樹の森が広がり、新緑や紅葉のシーズンはまさに絶景、多くの鉄道ファンが写真を撮りに訪れていた。しかし、長野新幹線(現・北陸新幹線)の開業と引き換えに1997年9月30日に廃止された。

■廃線ウォークスタート! 軽井沢~熊ノ平

 「廃線ウォーク」が始まったのは2018年10月14日、廃止されてから実に20年もの時間が経過していた。上り線、下り線、歩く距離などによって、いくつかのコースが用意されているが、今回は軽井沢から横川までの旧信越本線の上り線、およそ11㎞を下るツアーに参加することになった。

 碓氷峠の名物といえば、なんといっても横川の駅弁「峠の釜めし」である。かつて列車は峠越えのため横川駅で補助機関車を連結するため5分ほど停車しなければならなかった。その停車時間が「峠の釜めし」という傑作駅弁を生みだしたのだ。峠を越える鉄道はなくなってしまったが、現在は終着駅となった横川駅で販売され愛され続けている。

しなの鉄道の軽井沢駅舎は旧国鉄軽井沢駅(国指定重要文化財)
軽井沢駅に展示されている碓氷峠専用の電気機関車EF63

●9:30 廃線跡入口 

 軽井沢駅から線路沿いの道を徒歩で移動。ヘルメットと懐中電灯が貸し出され、いよいよここから廃線跡に入る。廃線跡とはいえ普段は立ち入り禁止となっており、「廃線ウォーク」が開催されるときだけ特別に許可されている。およそ11km歩くので、まずは、準備体操。運動不足の人は、特に足の屈伸運動が重要だ。それから、ヒルに備えて、ズボンの裾は靴下の中に入れるようにという注意喚起があった。

階段を降りて廃線跡へ

 歩いたのは旧信越本線の上り線。いまから25年前の線路ということになる。25年間も列車が走っていないのに、枕木もレールもかなりきれいだ。廃線跡というから、雑草ぼうぼうを覚悟して来たというのに、ちょっぴり拍子抜けでもある。

 「実は、皆さんが歩きやすいように、常に草刈りしています。ただし、雑草がどれほどすごいか、除草していない箇所もありますよ」

 こう教えてくれたは廃線ウォークガイドの上原将太さんだ。2018年にこのツアーを始める前は、20年間放置されていた線路上に草木が生い茂り、歩ける状態ではなかったという。

廃線跡には枕木もレールもしっかり残っている

●9:55 11号トンネル入口

66.7‰の標識を横目に新碓氷隧道へ

 新碓氷隧道まで進むと上原さんから説明があった。 

 「トンネルの上に、“新碓氷隧道”の揮毫(きごう)があります。書いたのは、十河信二さん。第4代国鉄総裁で新幹線の父と呼ばれています。この新線が開通したのは1963年なので、59年前ですね。さあ、ここから11のトンネルをくぐり抜けて横川まで行きます。トンネル入口の標識[66.7]にもご注目。1,000メートル進む間に66.7メートル下る急勾配です。トンネルに入ると、ぐーんと下って行くのがわかるでしょう」

 歩くのは上り線なのに線路を下る。逆に、下り線は上るというからややこしい。

●10:05 11号トンネルの中程で長野、群馬の県境を越える

 11号トンネルの中に長野と群馬の県境がある。廃線跡は、長野県側も含めて、JR東日本から群馬県安中市に譲渡されている。ちなみにガイドの上原さんは生まれも育ちも群馬の安中で、おじい様は碓氷峠の電気機関士だったそうだ。

トンネルの壁に書かれた県境の表示(左)と説明をしてくれたガイドの上原さん(右)
トンネル内の線路

●11:15 旧線第13橋梁(中尾橋梁・5連アーチ橋)休憩

 11あるトンネル中の最長の9号トンネルは全長1,332メートル。このトンネルを出たところで休憩となった。歩いてきたのは上り線だが、隣に下り線がある。そして、その隣には明治26年に開通した旧線があって、第13橋梁、通称中尾橋梁と呼ばれる5連のレンガアーチ橋は国の重要文化財となっている。。昔はこのアーチ橋の下を国道18号が走っていたそうだ。

旧線の第13橋梁(通称中尾橋梁)は5連のレンガアーチ橋
廃線跡を歩くガイドの上原さん