ポルトガル出身のタレントS氏に、同国のアウトドア事情について聞いたことがある。ポルトガルではピクニックが一般的で、休日になると家族や友人とよく出掛けるそうな。その時に必ず持参するのが、オイルサーディンの缶詰と玉ネギ、ナイフだという。

 「ランチタイムになったら玉ネギの皮をむき、芯を抜きます。抜いた穴にサーディンを突っ込みます」とS氏は言う。

 「缶のオイルも穴に流し入れて、それを丸ごとかじって食べます」

 「えっ、玉ネギは生のまま?」と僕。

 「ポルトガルの玉ネギは辛くないから。口元がオイルだらけになるけど、サーディンと一緒に食べるとすごく美味しい」とS氏。

 なんと野趣に満ちた食べ方か! ポルトガル人がみんな同じことをしているとは思えないけど、少なくともS氏の周辺ではその食べ方がスタンダードらしい。

 ポルトガルの缶詰文化は奥深い。同国最大手の缶詰メーカー「Ramirez(ラミレス)」は、現存する缶詰メーカーの中でも最古の歴史を持っていて、創業はなんと1853年。日本ではペリーが浦賀に来航した年だ。

 首都リスボンには、ポルトガル缶詰協会が運営する缶詰ショップがあり、常時20社300種類の缶詰を揃えている。港近くのコメールシオ広場にあるレストラン「Can The Can」は、世界的に有名な缶詰料理専門店だ。

 僕の推測だが、ポルトガルは国をあげて缶詰を観光資源化していて、しかもそれが成功している。海外のガイドブックを見ても、ポルトガルの土産の筆頭にはほとんど缶詰が推薦されているのだ。