「日本茶を世界のソフトドリンクに」することが私の夢だ。

 でも、それ以前に日本人が日本茶を知らない。日本茶の本当のよさを知らないことに気づかされる場面が多い。日常的に飲んでいる日本茶なのに、どうやってつくられているのか、どんな場所でどんな人がつくっているのか、それによってどんなバリエーションがあるのか知らない。とても危ういことだと思う。

■「日本茶を知っていますか?」

 現在の日本では、私がはじめて来日したころには考えられなかったほどワインが普及している。1980年代の日本にだってワインはあったけれど、レストランで飲む「特別なもの」という印象が強かったはずなのに、今ではすっかり日常のテーブルになじんでいる。

 スーパーやコンビニでも格安のテーブルワインが買える。居酒屋のメニューにものっている。さらに「おいしい」ワインを求めたければ、専門店で相談しながら買い物することも可能だし、料理に合わせたワインを提供してくれるレストランに行くこともできる。さらにワイン講座に通って産地や製法ごとの違いを含めたワインそのものへの理解を深めている人も多くいる。本当に、ワインは日本に定着したんだと思う。  

 一方、日本茶はどうだろう。 

 さまざまなメディアから取材を受けると必ず聞かれることがある。

 「日本茶の魅力はどこにありますか?」

 「日本茶にはワインと共通する豊かなストーリーがある。産地・品種・製法・生産者によって異なるバラエティに富んだ味わいがある。食材と商材としてこれほど可能性に富んだものはない」と答える。

 あるとき、「日本茶の品種ってどんなものですか?」と率直に聞いてくれる取材者に、「じゃあ、ワインに使うぶどうの品種を知っている?」と聞いたら「シャルドネ、メルロー、ピノノアール、カベルネソービニヨン……」と、どんどん出てくる。

 「日本茶の茶樹だってさまざまな品種があるんだよ。やぶきたって聞いたことある?」

 「やぶきたって品種だったんですね」

 海外へ日本茶を知らせる・普及させるどころではない。日本茶を日本人が知らない。日常的に飲んでいるはずなのに、素材としての食材としての日本茶のことを日本人は知らない。ワインよりも知らない。衝撃だった。

ワイン講座の様子。日本茶講座も行っている

■「日本茶選びの基準を持っていますか?」

 「日本茶にはワインと共通する豊かなストーリーがある」

 このことを知ってもらいたくて、私の店に足を運んでくれる人には、時間さえ許せば、実際のお茶を飲んでもらいながら産地・品種・製法・生産者によって異なる味わいについてお話しすることにしている。

 日本茶の味わいの最大の特徴は、日本の食味全般の特徴でもある「旨味」だと思う。「旨味」と「甘味」と「コク」のバランスが生産地と地形によってバリエーションをつくっていることをまず知ってもらいたい。

 日本茶の主な生産地は、南は屋久島から、北は新潟まで広がっている。南の茶葉は旨味と甘味の濃さが特徴だ。北に行けば行くほど旨味はあるけれども甘味は少なくなる。そのかわりにコクが深くなる。

 地形によっても、「里(平地)のお茶」や「谷のお茶」は日照条件などの生育環境がよいせいもあって甘味が出やすい。「山のお茶」は生育環境も厳しく、寒暖差も激しいからコクが強くなる。

 大雑把だけどシンプルに説明をしながら実際のお茶を飲んでもらう。日本茶の「旨味」と「甘味」と「コク」は、実際に体験してみないとその違いがわからないから。

 「これは鹿児島県知覧のお茶。南の谷でつくられたお茶だよ。旨味も甘味も強いでしょ」

 「これは静岡県の掛川茶。知覧茶に比べると北でつくられたお茶だからコクが強い。でも谷のお茶だから甘味もあるでしょ」

 「これは同じ静岡県の川根茶。高地でつくられた山のお茶だから、掛川茶に比べるとさらに甘味が少ない。でも旨味がすっきり引き立つ感じがしない?」

 こんなふうに会話をしながらお客様に自分の好みを探る。甘味が強いお茶が好きな人には、他の生産地の南のお茶・谷のお茶も試してもらう。こうして、お客様が自分好みの日本茶を選ぶための基準がつくれるように導くことが大事だと思う。 

「おちゃらか」で接客をするステファン