■オフィス街の地下店舗から下町の路面店へ

 2020年のコロナ禍は、「おちゃらか」のような弱小小売店にとんでもない打撃を与えた。春から夏にかけて、私はこの災厄を乗り越え、新たな物語をスタートさせようと奮闘していた。

 「ずっと練り続けていた『東京の下町の路地から日本茶のよさを発信する』というプランの実現が少々早まるだけだ」と自分にいい聞かせながら資金繰りに奔走し、旧店舗からの退去交渉や新店舗の物件契約を着々と進めていった。

 旧店舗のあったCOREDO室町は、周辺の大企業に勤めるビジネスマンやホテルに宿泊する外国人観光客の来店が多く、吉祥寺とは違う客層にアプローチできた。面積も広く、茶農家を招いてイベントをするのにも便利だった。ただ、店はオフィス街の地下にあったから、生活の匂いもその日の天気も空気の匂いも感じられない。商店街で育った私の気持ちを窮屈にさせていたのも事実だ。早く地上に出たかった。商店街のお茶屋さんに戻りたかった。

 古き良きまち人形町に理想的な物件が見つかったのは5月中旬。住宅と商店が混在する小さな社に守られた昔ながらのコミュニティ。大通りから1本入った路地に面する手ごろな広さの物件は、私の思い描く「おちゃらか」らしい店作りにぴったりだった。

 大家さんも「おちゃらかのコンセプト」に共感してくれて、契約は意外なほどスムーズにまとまった。早速「6月中旬を目処に日本橋人形町二丁目に路面店をオープンする」と発表したのだが……。

細い路地を入ると居酒屋などの飲食店がひしめき合う人形町
着物姿の人が行き交う下町情緒漂う一角に店(写真の左側)を構えた。外装は看板を出しただけで、まだ途中段階