■四世代に渡って受け継がれてきた家族経営のワイナリー

 宿泊地に選んだのは、モンタルチーノの村から5キロほど離れた丘の上にある家族経営の小さなワイナリー兼アグリツーリズモ『Podere Il Cocco(ポデーレ・イル・コッコ)』。モンタルチーノ周辺に無数にあるアグリツーリズモの中でも私が特にここに惹かれた理由は、「昔ながらのイタリアの農園の暮らしが体験できる」と思ったからだ。

 アグリツーリズモ(=農業+観光)という言葉は日本でも既に定着しているが、最近ではプールやサーヴィス専門のスタッフ、スパなどを備えたリゾートホテルのような「高級アグリツーリズモ」を売りにする施設が増え、本来の姿から遠ざかりつつあることを苦々しく思っていた。

 元々、家族経営の小さな農家では収穫期などに外部から人を呼び寄せ、宿と食事を提供する代わりに農作業を手伝ってもらう習慣があり、近年減少傾向にあった農家や農園を守ろうと、この習慣と観光を結びつけて出来たのが「アグリツーリズモ」なのである。せっかくブルネッロの故郷へ行くのだから、ただの流行りのリラックス施設ではない“本物の”アグリツーリズモに泊まりたい。

 そんな私の願いを叶えてくれたのが、ジャコモ、ドミティッラ、ステファノ、エットレという若い四人兄弟が経営するワイナリー兼アグリツーリズモだ。彼らは有機農法で栽培したブドウを使い、少数ながらもとびきりのワインを製造している。建物は1400年代に“サー・コッコ”と呼ばれる人物が暮らしていた当時のもので、「コッコ農園」という名前もこの人物に由来している。1700年からは農家が土地を管理していたが、1955年に当時の所有者だった兄弟のお祖父さんの叔父からお祖父さんへ譲渡され、以来代々家族でワイン造りを継承している。


トスカーナならではの糸杉の並木道が続く「Il Cocco」のエントランス
建物は1400年代のもの。ワイン醸造所、ワインセラー、宿泊施設(B&B、アグリツーリズモ)、キャンピング場、レストランなどの施設がある。周囲は当然ながら「葡萄畑」。海抜600mに位置しているので朝晩はとても涼しい

現当主の兄弟。 左から、紅一点・アグリツーリズモ担当のドミティッラ、ワイン造りと畑担当の長男ジャコモと5代目(!?)の赤ちゃん、レストラン担当のステファノ。末っ子のエットレは別の畑で仕事中だった
宿泊施設は15世紀の建物にある。各部屋にアンティークの家具、バスルームが備え付けられている他、共有スペースにはキッチンや暖炉などもある