■1400年代のカンティーナで銘酒をテイスティング
部屋にチェックインして間もなく、カンティーナ(=ワインセラー)でテイスティング・ツアーがあるというので参加させてもらうことにした。テイスティング・ツアーは予約制で、ワイン担当のジャコモのスケジュールに合わせて行われている。このワイナリーで作られている3種類のワイン、グラッパなどを試飲させてもらうことができる。この日は台湾から来たグループと、2組のアメリカ人カップル、総勢10名ほどが参加した。
1400年代の古い建物はどっしりした石造りで、中に入った途端、冷んやりとした空気に包まれた。分厚い石のブロック造りなので、クーラーなどなくとも内部を快適な気温に保つことができる。古い歴史が今尚息づいている空間には、年代物らしき樽や値段がつけられないようなブルネッロのボトルが無造作に置いてあり、ワイン好きならここに立っているだけでも狂喜しそうだ。
ワイングラスを手にする前に、まずはジャコモから「ブルネッロ」というワインの特性や有機農法でのワイン造りについて、詳細なレクチャーがある。先代オーナーであり、医師でもある父親と共に「ビオ(=有機栽培)」を極めたワイン造りを探求しているジャコモは、少数でもクオリティの高いワイン造りにこだわりを持っている。
ジャコモのガイドはオルチャ渓谷の自然環境、土地の質、昨今の温暖化による気象変動がワインに及ぼす影響、葡萄の木の剪定など、ワインの質を左右する葡萄づくりから始まり、ワインそのもののテイスティングに入る前に、壮大なスケールの自然のレクチャーを受けたような気分になる。
「僕が主催するテイスティングは、決してスーツ&ネクタイのフォーマルなものにはなりません。僕にとってこのテイスティング・ツアーは、この農園と僕たちの哲学を皆さんに発見してもらうためのもの。皆さんのここへの訪問は、皆さんと僕たちがお互いに知り合うためのものであり、この地球上で唯一無二の大地への僕たちの愛を皆さんにお見せするためのものであると思っています」
ジャコモのこの言葉通り、2時間に及ぶテイスティング・ツアーでは、彼のワイン造り、そしてこの土地に対する並々ならぬ情熱と愛情をたっぷり体感した。
ジャコモが文字通り心血を注いで造り上げた有機栽培の『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』の芳醇かつ高貴な味わいと言ったら、それはもう、言葉では語りつくせない。たった今習ったばかりの「正しいテイスティング方法」で、口に含んだワインを舌の上で転がしたり、鼻腔を使って香りを楽しみながら、同じ液体がまるで万華鏡のように変化していくことに驚きを隠せなかった。
フレッシュな花の香りがしたかと思えば、まろやかな苦味、ほんのりとフルーティな甘み、ピリッとしたスパイスの香りなどなど、もう表現しきれないほどの多彩な味と香りが楽しめる。たった一杯のグラスワインが、こんなにも幸せな気分にしてくれる。その喜びに浸った。
(*次回、後編へ続きます。お楽しみに!)