駅前の大きな公園にある池。昼間は、観光客や昼休みのビジネスマンが訪れるよくある都市公園だが、2月末から3月末にかけての夜、冬眠から目覚めたヒキガエルが産卵のために大集結する。その数はなんと100匹以上にもなる。ふだんは公園のどこにいて、どのような生活をしているのかはわからないが、毎年この時期になると必ずやって来る恒例行事。その恋のバトルの様子をそっと覗かせてもらった。

■都市公園の池で年に一度の大イベントが開催

梅の花がほころぶ早春の都市公園

 スタジアムが隣接する駅前の都市公園。寒さの厳しい日が続く中でも、暖かな日差しが届くようになる2月下旬。この頃になると、関東地方に住む私は、そわそわする毎日を過ごすようになる。それは、カエルが長い冬眠から目覚める季節だからだ。

 カエルといえば、東京オリンピックのボクシングで金メダルをとった入江聖奈選手が、「ラブリー」と言って愛してやまないカエルの研究をするために現役を引退したのが記憶に新しい。彼女が、中でも最も好きなのがヒキガエル。ガマガエルとも呼ばれる大きなカエルだ。山陰・近畿地方から東北にかけてはアズマヒキガエル、西南日本では二ホンヒキガエルが生息する。そのヒキガエルが一斉に目覚め、恋のバトルが行われる年に一度の大イベントがいよいよ始まるのだ。

ビジネス街のライトが輝く夜の公園。ひっそりとした空間の中で、カエルたちの恋の熱いバトルが繰り広げられる

 私の手元にある図鑑によれば、アズマヒキガエルが繁殖する際の水温は約10℃とのこと。そのため、この頃になると、私は、水温を測れるデジタル温度計を持って夜の公園に出没するようになる。何も知らない市民の方々からすると、怪しい雰囲気がプンプンしていることは容易に想像がつくが、意外と同好の士もいるようで、それらしき眼差しで池を覗き込んでいる人と会うこともある。

長いコードの先端にセンサーが付いた温度計。簡単に水温を測ることができる

 水温が10℃を超える日が数日続くと、昼間の喧騒が嘘のように誰もいなくなった公園に、ヒキガエルたちが集まってくる。普段は陸上生活をしているヒキガエルだが、産卵をするためにこの池にやってくるのだ。

■冬眠から覚めたヒキガエルが大集結

大型ホテルのネオンをバックに現れたヒキガエル

 ヒキガエルたちの合コンがついに始まった!  現在社会においては、マッチングアプリによる恋人探しも広まっているようだが、ヒキガエルたちにはオンラインもバーチャルも「関係ねー! 」子孫を残すための戦いは、真剣そのものなのである。足元を見ると、何匹ものヒキガエルがのそのそ歩いている。あちらにもこちらにも、たくさんいる。いったいどこからこの池にこんなに多くのヒキガエルがやって来ているのだろうか。ヘッドランプで照らしながらカウントしてみると、なんと100匹以上にもなった。気をつけて歩かなければ踏みつけてしまいそうなほどだ。

早くもカップルが成立した後ろでは、相手探しに焦るカエルも

 耳を澄ますと、「クククッ、クククッ」という声が聞こえてくる。恋をささやく甘い声と思いきや、実はオスが、メスと間違えてオスを抱きしめた時に「違うよ、俺はオスだよ。離してくれ~」という合図の声(リリースコール)だそうだ。この頃のオスは、近くを通過する物体があるとやみくもに抱きつこうとする。ダメもとでなんでもチャレンジ!  とでもいうような強引なやり方だ。時には、泳ぐ魚にも抱きついてしまうヒキガエルもいるらしい。そのため、リリースコールと呼ばれる習性が身についたのだろう。

 ヒキガエルは、最初は陸上を歩きながらお相手を探しているが、そのうち、水の中に入って活動を始めるようになる。

水の中でパートナーを探すヒキガエル

 よく見ると、中には、体が赤く染まっているものもいる。オイカワなどの魚やシラサギなどの野鳥にも見られるが、繁殖期特有の婚姻色と言われるものなのだろう。合コンもかなり盛り上がってきているはずだ。

婚姻色の赤色が目立つヒキガエル