2023年5月から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針となります。それに伴って春からの登山者も増えると予想されます。2022年の山岳遭難データから登山の注意点を考えました。ご自身の登山の参考にしていただければ幸いです。

 2022年(山梨県警発表)の山岳遭難発生状況を振り返り、山梨県在住の登山ガイドである渡辺佐智が県警地域課へのインタビューを行い、遭難事故の傾向を解説します。

■過去最多の山岳遭難にせまる

山岳遭難数【2022年:155件173人、死亡18名、負傷者68名】【2021年:116件134人、死亡12名、負傷者51名】【2020年:111件132人、死亡12名、負傷者46名】【2019年:165件185人、死亡30名、負傷者83名】『山梨県警発表、2019年~2022年』

 2019年から2022年まで4年間の山岳遭難を比べてみた。2019年は過去最多の遭難だったが、コロナ禍の2020年と2021年に落ち込み、2022年は大きく増加傾向なことがみてとれる。特に2022年10月は統計を取り始めて以来、過去最多の月間遭難件数を記録した。登山業界に身を置くものとしては、山の魅力を感じる人が増えることは喜ばしい反面、事故数が増えていることは残念でならない。

 登山の楽しい面だけでなく遭難という厳しい面も知り、長く大事に山を楽しむ登山者が増えることを願っている。

・2022年の遭難数は過去最多の2019年にせまる
・遭難件数と遭難人数の割合には変化は見られない
・遭難人数あたりの負傷者1人の割合に大きな変化はなし(2.2~2.8人あたりに1人)
・遭難人数あたりの死亡者1人の割合は変化あり(2022年は9.6人、2020-2021年は11.1人、2019年は6.1人)

 ポストコロナの今年の懸念は、遭難の増加に対して限りある救助資源(人材やヘリを含む)が追いつかなくなるのではと思われることだ。登山者の本心としては、本当に救助が必要な遭難に時間も資源も集中してほしい。遭難の中にはお粗末な状況のものもあり「これらが減ればなぁ」と、おせっかいながら毎度考えている。

 例えば、ヘッドライト不携帯による行動不能からの救助要請だ。ヘッドライトは持っているだけで、避けられる遭難があり、絶対に持っていく登山の必携装備だが、依然としてなくならない。片手に納まる小さな装備一つで、日没後でも下山できるかどうかの明暗を分ける。昼間に行う登山ですが、必ずヘッドライトを持っていきましょう。

■交通事故との比較

交通事故比較【山岳遭難:155件、死亡18名、負傷者68名】【交通事故:2,019件、死亡25名、負傷者2,516名】『山梨県警発表、2022年1月1日~12月31日』

 事故件数でみると、残念ながら交通事故よりも山岳遭難の死亡者(オレンジ)は割合が高い。

・交通事故:約78件に1人死亡
・山岳遭難:約8.6件に1人死亡

 ドライバー全体の数や登山者全数と比較したわけでないので、一概に交通事故より危ない、ということではないが、山岳遭難はいざ事故が起きた場合に死亡する可能性は、交通事故に比べて格段に高いと言える。楽しみの時間のはずが一転、何か起きると重大な結果に繋がることを前提に準備をする必要がある。

 島国にっぽんの住人である私たちは、他国と隣接する国よりも平和に慣れていることで、野外での遊びに対しての安全意識が低いように感じている。その一方私たちは災害に対しての認識は高いはずで、その思考を登山に反映してはどうだろうか。楽しい登山を長く続けるための最初のステップは、事前にできる準備(登山届の提出と登山保険の加入)だと思う。