ある時、シカにより枝先の冬芽がかじられたカエデの木を見つけた。よく見ると、かじられた枝先の全てに、子どもの鼻水のような氷柱(つらら)がぶら下がっていた。何の気なしにその氷柱をポキっと折って口に入れてみたところ、ほんのりと甘さを感じるではないか。おそらく、かじられた部分から樹液が染み出して凍ったのだろう。
日本ではイタヤカエデからメープルシロップをとる地域があるが、カエデの仲間の樹液はどれも甘いのかもしれない。シカもそれを知っているのだろう。だとしたら、シラカバの樹液もほんのり甘いのだから、どこか他にかじられた枝先から氷柱がぶら下がってないかなと探しているが、今のところまだ見つけられていない。
■雪上の鮭フレークは「キツツキのドラミング跡」
最後にキツツキのフィールドサインを紹介したい。
キツツキは木の幹に穴を掘って巣を作り、主に枯れ木に巣食う虫を食べる。もし、スキー場の林道コースや森の際の雪面に、鮭フレークのような木端が散乱していたら、すぐ近くに立ち枯れた木を探してほしい。キツツキの堀った穴が見つかるかもしれない。
今回は生きものの痕跡「フィールドサイン」をご紹介した。ちなみに足跡全般に言えることだが、走れば足跡の間隔は広くなり、歩けば狭くなる。そして急に進路を変えていたら、そこでなにかがあったのかもしれない。例えば、茂みまで寄っていって木の芽を食べて方向転換したとか、別の動物がいたので逃げたとか。
足跡は、持ち主の種類を同定するだけでなく、その動物の行動まで想像できるので楽しい。足跡や食べ跡の他にも、フン、寝床、巣、ペリット(鳥が吐き出す不消化物のかたまり)など、いろいろな痕跡があるので、自然の見方の解像度を上げたい人は、ぜひ注目してほしい。