腕前はたいしたことないが、私はスキーが趣味で大学でも教えている。じつは、どのスキー場でもリフトに乗っている時間は、最高の自然観察タイムだということをご存知だろうか。とはいえ、日中のスキー場で生きている動物を見ることは滅多にない。当然のことだが野生動物は人が多い場所を避けるし、多くの動物が夜行性だからだ。

 しかし、彼らの痕跡は場内に無数に残されており、よく観察すれば誰でも見つけることができる。今回は、筆者がよく行く長野、新潟、山形のスキー場を中心に、雪の上で楽しめる生きものの痕跡「フィールドサイン」についてお伝えしたい。

■Y字型はニホンウサギの足跡

 森の中を上がるリフトに乗ると、動物たちの足跡をゲレンデより頻繁に見ることができる。

 よく見るのがノウサギ(ニホンノウサギ)の足跡だ。日本以外では見ることのできない日本固有種で、本州、四国、九州に生息しており夜行性。足跡の特徴は、割と丸い形をした前足の跡が縦に2つ、それを追い越してエクレアのような形をした後ろ足の跡が左右につく傾向にある。その様がなんとなくY字に見えるので、慣れればすぐわかるだろう。

Y字に見えるノウサギの足跡

■シカとカモシカは糞で見分けられる

 次はカモシカ(ニホンカモシカ)。昼も夜も行動するため、たまにリフトから見かけると嬉しい。日本固有種で、本州、四国、九州に分布している。

 足跡の特徴は、2つの指というか正確には爪である蹄(ひづめ)の跡だ。シカ(ニホンジカ)に比べて幅が広く、先端も丸みを帯びているとはいえ、雪についた足跡はシカとよく似ているので、安易な同定はできない。シカは雪に弱いので雪山で見る足跡は大体カモシカだろうという人もよくいるが、1mくらいならラッセルして歩くという猟師の証言を記した論文もある。スキー場であっても降雪量の低い年なら、シカがゲレンデを移動する可能性はあるだろう。

 カモシカっぽい足跡があったら、フンなども合わせて判断したい。形はシカにそっくりだが、シカは歩きながらパラパラとフンをすることが多い一方、カモシカは止まってフンをする傾向にあるので、まとまっていることが多いのだ。

カモシカの足跡(左)の方が、シカの足跡(右)に比べ蹄が太く先端が丸っこく見える。そして、カモシカのフンはまとまっていることが多い