■消えた氷華

 ケーブルカーは、標高差約270mを6分ほどで一気に上る。途中には、ケーブルカーでの日本最大斜度となる31度18分の急こう配の場所もあるのでよく見ておこう。

 山上の高尾山駅に着いたら、舗装された1号路を登っていく。シモバシラがあるのは、山頂付近を鉢巻き状に一周している5号路・もみじ台北側のまき道・一丁平北側のまき道などが有名である。

もみじ台北側のまき道。左奥の階段を上らず、右手の北側の道を進もう

 3日前にはそれらの場所にたくさんあったという情報を入手していたので、わくわくしながら足を進める。その方の話によれば、女坂でも見られた、とのことだったが見つけることはできなかった。

 薬王院を過ぎ、山頂に向かう。その手前に5号路はある。数年前には、筆者もたくさん見つけることができた。が……ない。シモバシラがあることを示す札もあるのだが、白い“氷の花”がない。そんなはずはない、ふもとにはしっかりあったのだから。山頂からきれいに見える富士山にも心が躍らない。よし、奥高尾に向かってみよう。

 しかし、もみじ台や一丁平の北側のまき道にもない。少ししかないというのではない、全くないのだ。今朝もしっかり冷え込んでいたというのに、いったいどうしたというのだろう。他の登山者からも「今日はシモバシラがないですね」とのため息が聞かれる。

 後日わかったことだが、風が強かったり気温が低過ぎたりしても氷華は見られないそうだ。この日もそんな気象のいたずらがあったのだろうか。

 ここまで来たら、筆者の知っている最後のポイントである小仏城山まで、もう少し足を延ばしてみるしかない。

シモバシラの観察や撮影の際には、周辺の植生に配慮して登山道から外れないようにしよう

■美しい氷の芸術 

 城山から日影へと向かう道を少し降りていく。すると、道の脇に柔らかい白いものが点在しているのが見えた。ついに見つけた! シモバシラの“氷の花”だ。陽が差し込む前にぎりぎり間に合った。

午前10時前。日が当たる前に氷華に出会えて胸をなでおろす

 氷華には様々な形があり、目を楽しませてくれる。大きさもいろいろで、一晩でこんなにも水を吸い上げたのかと、シモバシラの根の生命力に驚かされる。

 氷華にぐっと近づくと、横に縞が見えるものがある。茎から水がしみ出し、凍りながら次々と押し出していったのだろう。「シモバシラ」の名がついたことに大きくうなずく。

茎から外に水がしみ出しながら凍っていった様子をよく見たい

 あまりに個性的な氷華の数々に、時間を忘れて見とれてしまう。ふと我に返ると、前へ前へと踏み込み過ぎそうになっている自分がいて慌てる。シモバシラの周りにも多くの植物があることに気をつけながら観察を続けよう。

 朝のうちにしか見られない、まるでシンデレラのストーリーのような時間限定の氷華。昼までにはとけてしまうものが多い。実際、下山後にミュージアム前のシモバシラを見に行くと、もうすっかりとけきっていて、夢から覚めたような気持ちになった。シモバシラは、毎晩氷華を作り続けることで日ごとに茎が大きく裂けるようになり、最後は、地中の根も水を吸い上げる力が尽きて、シーズンを終える。2月頃までが旬らしい。ぜひ、シモバシラと氷の奏でるハーモニーを味わってほしい。