■最大の対策は「ヒグマが近くにいるかもしれない」という認識を持つこと

伊達市 北黄金貝塚情報センターに展示されているヒグマの剥製(撮影:尾野雄一)

 登山において、ヒグマとの遭遇を「確実に避ける」方法はない。しかし、自治体から発出されるヒグマ出没情報の確認と、登山中の様子によってヒグマが近くにいることをうかがい知ることで、危険を軽減することはできる。

 まずもっともわかりやすい痕跡は、足跡とフンだ。ヒグマの足跡は5本指で、前足の跡には爪の跡が残るため、他の動物との区別がしやすい。フンは時間が経つとペースト状になることがあるが、新しいものは俵型の7〜8cmのものが多く、集合体全体の径が30cmぐらいになることが多い。

 また、周辺の木にも注目しよう。幹に数本の引っかき傷がある場合、ヒグマが木に登った際についた痕跡であることが疑われる。木が数本だけ、あるいは1本だけ揺れている場合、ヒグマが木のそばを通っていたり木に登っているかもしれない。

 登山中は大自然を満喫して周囲の草花を眺めるのもよいが、常に「ヒグマがいるかもしれない」ということを頭の片隅にとどめておき、周囲の状況をこまめに確認しよう。ヒグマが近くにいる兆候を早い段階で発見し、下山の判断に繋げよう。

■ヒグマ対策に万全はないが、危険を察知することはできる

ヒグマに人間の接近を知らせる「熊鈴」も有効だ(撮影:尾野雄一)

 ヒグマと人との遭遇確率をゼロにすることは不可能だ。しかし、ヒグマの出没情報や、環境に残るヒグマの痕跡から、ヒグマの接近を察知することは可能だ。熊鈴をつける、ラジオをかけるなどの対策も近年ではかなり周知されてきた。人間の接近を早めに知らせる意味では、これらも有効である。

 万が一、ヒグマが近くにいることを確認した場合は、一刻も早く下山の決断をするのが正解だ。遠方から登山に訪れていれば、残念な気持ちもあるだろう。ヒグマが離れれば安全と考えてしまうかもしれないが、その安易な考えこそが悲劇に繋がることを、過去の熊害事件の痛ましさが物語っているのである。