登山は大自然を満喫できるが、大自然ならではの危険もある。突然の天候不良や遭難、怪我などはもちろんであるが、野生動物、ヒグマには最大級の注意が必要だ。
今回は、過去の事例からわかったヒグマの習性と、登山中の遭遇をできるだけ避け、安全に登山を楽しむポイントを解説する。
■歴史が物語る「熊害事件」の悲惨さと、ヒグマへの「誤解」
北海道に暮らす人々にとってヒグマは身近な脅威であり、歴史を紐解けば数々の「熊害事件」の情報を辿ることができる。
1915年の「三毛別羆事件」では、開拓集落の住民がヒグマに襲撃され、7名が死亡した。この事件では、ヒグマが繰り返し事件現場となった集落を襲撃し、家の中にいた妊婦と胎児が犠牲となった。また、ヒグマが持ち去った遺体の一部を取り戻したところ、ヒグマが通夜の会場を襲撃し棺桶を破壊したことが確認されている。
1970年に福岡大学のワンダーフォーゲル部の学生が北海道で登山中にヒグマに襲撃され、3名が犠牲となった事件では、一度テントを襲撃された学生が、ヒグマを追い払って荷物を取り返した翌日に襲撃されている。犠牲者の遺体には咬み傷や引っかき傷が多数あったが、射殺されたヒグマを解剖したところ、体内から犠牲者の肉片や持ち物は確認されなかった。つまり餌としてではなく、「外敵」として攻撃されたわけである。
なお、三毛別の事件では、ヒグマは「火を怖がる」という認識が誤解であることが明らかになった。焚き火や灯火を煌々と灯した開拓小屋に対して、ヒグマは堂々と襲撃してきたのである。
■ヒグマは所有物と獲物を諦めない
ヒグマは一度自分の所有物と認識したものを取り返すと、執拗にそれを奪い返そうとする習性がある。つまり、ヒグマにザックを奪われたとして、それを取り返そうとすれば、ヒグマにとっての「敵」となるわけである。
また、福岡大学の事件の後に行われたマネキン人形を用いた実験では、マネキン人形に背を向けさせ逃げる姿勢を取らせたところ、ヒグマはいきなり飛びかかってきたという。つまり、「背を向けて逃げるものを追う習性がある」ことがこの実験からわかる。