山梨県の湖といえば、富士五湖を思い起こす人が多いだろう。富士五湖とは、富士山の東側から北西側にかけて満々と水を湛える5つの大きな湖のこと。東から山中湖、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖の順で並んでいる一大レジャーエリアである。いずれも湖畔には素晴らしいロケーションのキャンプ場が立ち並んでいて、どの湖も日帰りで歩ける低山に囲まれている。それらの湖畔や山頂からは、やはり間近に眺める大迫力の富士山が見事。

 観光客のみならず、キャンパーやハイカーから絶大な支持を集める山梨県屈指の観光地ゆえに、連休や紅葉シーズンは半端なく混雑する。周辺道路は渋滞が風物詩で、ぼくもハマったこと度々。それゆえ、混雑が予想される場合は、富士五湖ならぬ“富士八海”へと逃れるようになった。

 富士八海とは、先述の富士五湖に泉端(せんずい)、明見湖(あすみこ)、四尾連湖(しびれこ)を加えた8つの水辺を指す。すべてに龍神が祀られた霊場であり、富士山信仰の水垢離(みずごり)の場でもある山岳信仰の聖地だ。そのなかでも四尾連湖は、水辺と山とをいっぺんに楽しむことができるおすすめの山域。人気漫画の舞台にもなった“聖地”だから、その名を知っている人も多いだろう。

■流れ出る河川も、流れ込む河川もない。魅惑の内陸湖

たゆたう小舟から釣り糸を垂らす。なんとものんびりした時間が流れる

 「四尾連湖」とは、4つの尾を連ねた龍が祀られたことから「シビレ」と名付けられたそうだ。上空から見ると、まるで龍の目のようにまん丸としているのが印象的。標高850mの深い山間に位置しているため、公共交通機関ではアクセスできない。そうした事情もあってか開発は最小限にとどまり、美しい自然景観がたっぷりと残されたままなのだ。

 ドライブがてら寄り道するのもいいし、1周1.2kmの湖畔散策や、周辺の低山へと日帰りハイクするのも楽しい。神秘的な湖の畔にあるテントサイトは静かで最高。サイトに照明はほとんどないので、夜は漆黒の闇に包まれ、焚き火をしながら贅沢な時間を過ごすことができる。とにかく一度訪れた人は、「また行きたい!」と思うこと間違いなしだ。

強い風が吹かない限り、湖面は鏡のように空と森を映して出す

 ここには山から注ぐ川がなければ、流れ出る川もない。満々と湛えられた蒼く冷たい水は湧水と雨水によるもので、不思議なことに通年水位はあまり変わらない。水がきれいであるがゆえに、泳いだり、釣りをしたり、ボートやSUPを楽しんだりと、水辺のアクティビティが充実している。秋には美しく彩られた紅葉の森が湖面にぐるりと映し出されるため、山歩きを楽しむハイカーにもとても評判がいい。

あちこちに見られる湧水ポイント。魚がたくさん群れているから、すぐにわかるだろう

 湖の岸辺におりて浅瀬を観察していると、そこかしこに開いた穴から水が湧き出る様子を見つけることができる。群れたり穴に入ったりして遊んでいる魚はウグイやオイカワだ。ほかの魚も湧き出す水の周囲を気持ちよさそうに泳ぐ。自分も足を水につけたくなってしまう、そんなタイプの人は、ビーチサンダルを忘れてはならない。