気がつけば、秋である。
ぼくは8月末の夏生まれで、大学進学のため東京に出てきてから「夏休み最後の日が誕生日なんだね」と言われることがたびたびあった。ところが故郷・東北の夏は短くて、関東などに比べると1週間ほど早く2学期が始まる。祭りの盛りはお盆のころまでだし、それと同時に空気は乾いて空は高くなり、気がつけば食卓には秋の旬が並ぶ。
そんなふうに、自分の誕生日にはもう秋を迎えてしまっているのが普通のことだった。それに比べると、関東は夏が本当に長いと感じる。
■本州でもっとも早く色づき、ここから紅葉前線の南下が始まる
つい先月のことだ。残暑の厳しい8月最終日の八ヶ岳から東京に戻った翌朝、ぼくは思いがけない肌寒さに目を覚ました。もう秋か……と、9月になったとたん変わってしまった季節に、ふと故郷の短い夏を思い出す。つい最近届いた便りによると、どうやら今年の北国の山々は色づきが早いらしい。
東北の紅葉ハイクといえば、本州でもっとも早く秋の色彩を楽しめる岩手県の三ツ石山、そして神の絨毯と形容される宮城県の栗駒山は、絶対に外せないだろう。そんなわけで、まずは三ツ石山で“紅葉はじめ”といきたい。
岩手県雫石町にある三ツ石山は、とにかく眺めが抜群の稜線歩きが楽しい。標高1466mの山頂には大きな露岩がドスンと鎮座していて、それが「どの方角から眺めても3つの岩峰に見える」ことが山名の由来だという。
この大きな露岩の上に登り立つと、眼前まで迫るように聳え立つ真東の岩手山が本当にかっこよくて、猛々しい山肌と艶やかな紅葉という対比が印象に残る。一度は歩いてみたくなる、たおやかな東北の山を代表する人気のトレイルである。
ちょうど三ツ石山は八幡平と岩手山を結ぶ稜線「裏岩手縦走路」の中間に位置する。そのため、岩手山のみならず秋田駒ヶ岳などの周辺の名峰を欲しいままに眺めることができるのだ。ここから目に入る紅葉は本州でもっとも早く色づくと評判で、それがこの山の人気に一役買っている。もしかしたら、この原稿が掲載されるころには、すでに見頃を迎えているかもしれない。