本日、2022年8月11日は制定されてから7回目の“山の日”となった。

 長野県小谷村にある栂池高原スキー場。グリーンシーズンは、白馬乗鞍岳、白馬大池を経由して白馬岳方面などに登る登山者に人気の登山口でもある。夏山シーズン真っ盛り、お盆休み・連休を利用した人々で、早朝、ゴンドラの運行開始前にはすでに山支度で並ぶ人々が列を作っていた。

 ただ、全国的なコロナウィルスの感染拡大と台風の接近による悪天候を危惧したのか、想像していたほど混雑は見られなかった。

 長野県登山安全条例によって、県内のほぼ全域で登山届の提出が義務化している。しかし未だに届けを出さない登山者も多い。未提出だと特に罰則があるという訳ではない。果たして「登山届」は何のため、誰のために必要なのか。

 スキー場、ゴンドラ乗り場の横にある北アルプス北部遭対協の栂池「登山相談所」で勤務して感じたことを通して、「登山届」について考えたい。

■登山届は何のため? 誰のため?

 登山届は、山登りを目的として登山道を歩く場合に必要となる書類。入山する際に登山口のポストなどに投函するイメージが強いかもしれない。入山届、登山(山行)計画書などなど、名称は様々だ。「これじゃないとダメ!」という書式はないが、パーティーの構成(名前・住所、連絡先・年齢・性別・緊急連絡先)と目的の山(山域)とルート(行程)、装備の一覧をまとめたものとなる。

※場所によっては用途が違う場合もある。下山時に「下山届」が必要なことも。

 一般的な救助要請は、本人や同行者、または側にいた第三者(目撃者)などからの山中から通報されるケース。もしくは同居の家族など(緊急連絡先)から、「山に行ったけど帰ってこない」という通報が警察に届け出されるケースがある。

 ただ、「〇〇山から帰ってこない」だけでは捜索のしようもない。当てもなく広い山の中、ましてや登山道以外も含めての捜索は、まさに大海撈針(たいかいろうしん)だ。捜索、救助にあたっては是非とも情報が欲しい。そこで登場するのが登山届。「迅速で的確な救助活動」を支えるために非常に重要な役割を担っていることに気づくだろう。

 つまり行政のためでもなく、仕方なく提出するものでもない。自分で自分たちの命を守るためのものだ。「自己責任」という言葉があるが、その責任の一つとも言える。

※同居する家族や緊急連絡先へも提出、パーティー内でも共有しておくのが肝心。さらに自分用も携行しよう。

■ネットで? 紙で? どちらでも都合のいい方でOK 「無料の登山装備!」

 僕自身も登山をするので、届けを作成し提出する煩わしさはよく理解しているつもりだ。ただ同時に、登山の怖さも常々感じているので、ひとつの安心材料として登山届を提出できるのは、非常にありがたいとも思っている。

栂池高原スキー場のベースエリアの一角にある「登山相談所」。登山シーズンの繁忙期には相談員がいる。「トイレどこですか?」が一番聞かれる質問だ

 ポストに投函するだけならいいが、対面だと「初めて。一人。装備が不十分かも」そんな不安点を追求されると、登る前から嫌な気分になってしまう。歩き出す前に時間を取られるのも不愉快かもしれない。けれど登山届を出すついでにルートの状況や、必要であればアドバイスもしてもらえる(はず)メリットもある。僕らも記憶の限り、人定などの情報を捜索時に提供することもできる。

 通常わずか3分程度で、記入して提出することができる(北アルプスの様式の場合)。あらかじめ記入したものを用意してあれば、よりスムーズだろう。

 コンパスやYAMAPといったネットで提出できるシステムも随分と普及してきている。基本情報などはあらかじめ登録しておけば、山行の度に記入する手間も省ける。しかも携帯端末のGPS機能と連動させると、山行中も機能的だ。同居する家族や緊急連絡先への提出、パーティー内での共有もしやすい。僕自身、特に登山届用のポストがない登山口では大いに助かっている。

※蛇足だが、紙の地形図に加えて携帯端末を併用することで、“老眼”でも拡大機能で確認できるメリットもある。苦手意識のある人もぜひトライしてもらいたい。

 登山届はネットでも紙でも臨機応変に適したものを選べば問題ない。より迅速な救助活動につながる、安全装備の一つだと思ってもらえるといい。しかも、なんとタダ(無料)だ。