八ヶ岳はかなり大きい。南北と東西とでは、まったく雰囲気も魅力も異なる。大きな山ではあるが、“八ヶ岳”というピークは、じつは存在しない。最高峰の赤岳(2,899m)をはじめとした、いくつもの山岳が連なる連峰である。主だった山が“八ツ”あるように見えることから、そのように呼ばれている。つまりざっくりいうと、山が多いとかそんな意味合いである(諸説あり)。

 よくいわれるのは、夏沢峠を境として南北の特徴が分かれるということだ。南八ヶ岳は険しい岩稜と荒々しい山肌が特徴的で、高度感のある岩尾根を歩く爽快感はとにかく素晴らしい。対照的に、北八ヶ岳は森の深さとコケの美しさに秀でていて、池を巡るコースも魅力的。楽しみ方が多彩だから、山頂を目指す山登りだけではなく、池の畔でテントに泊まることだけを楽しんだり、山腹の山小屋を訪ねて名物料理を食べに行くだけという人もいるくらい。それでも十分に山の良さを味わうことができる懐の深さが、八ヶ岳にはある。

■歩かなければ入れない! 山中の秘湯・本沢温泉

本沢温泉は歩いてしか行くことのできない秘湯。硫黄岳のふもとにひっそりと佇んでいる

 本沢温泉は、日帰りできる日本最高所の野天風呂である。山小屋泊もテント泊もできるのが魅力で、ぼくはこれまでに何度もテントを背負って訪れた。

 ここは内湯がとにかく最高だけれど、基本的には小屋の宿泊者しか入ることはできない。テント泊の人と日帰り入浴のみを希望する人が案内されるのは、日本最高所の野天風呂の方である。「いや、むしろこっちに入ってみたい!」という人も多いことだろう。お風呂はもちろん有料だから、小屋で手続きをしてから向かう。