硫黄岳の迫力ある山容を見上げながら湯に浸かる(木でフタがされたのが浴槽・写真中央下)

 写真の通り、着替えのための小屋や衝立はない。その場で衣服を脱いで湯舟に浸かるのみの、野趣溢れるスタイル。水着での利用はOKだから、ここを目的にする人は持ってきても(あるいはあらかじめ着てきても)いいだろう。

 見上げれば背後には硫黄岳がそびえ立ち、頭上には青空が広がる。湯舟の底はザラザラとした小石の感触があり、なんだかそれも気持ちがいい。自然の中にできるだけ負荷をかけずに設えられた努力が見て取れる。

 そばに延びる谷筋に大きな岩石が転がっていることに、いささかの不安を感じるかもしれない。過去には岩が浴槽を直撃して修復に時間がかかったことがあった。大変な修復だっただけに、それを乗り越えて再開されたときのファンたちの喜びは大きかったに違いない。それだけに、かなりワイルドなロケーションにある野天の風呂だということを自覚し、周囲への注意は払っておこう。

■初心者でもチャレンジしやすい本沢温泉までの道のり

10年ほど前の様子。いまは看板などにちょっと違いがあるかも

 本沢温泉までの道のりは、稲子湯から入るのがポピュラーだ。ここまで来る交通の便はあまりよくないけれど、歩き始めてしまえばコースタイムは片道3時間~3時間半ほど。道はわかりやすく、とても歩きやすい。日帰りにしても小屋泊にしても荷物はそう重くはならないだろうから、初心者でも挑戦しやすいのがいいところだ。

ミドリ池にもしらびそ小屋とキャンプ地がある。こちらもいい雰囲気だ

 テント泊を楽しむなら、重い荷物を背負って歩くことになる。気持ちのよい樹林帯を経て、ミドリ池とその畔に建つしらびそ小屋に着く頃には、すでにコースの半分以上はクリアだ。八ヶ岳の東麓の雰囲気を代表する水辺の風景に癒されたら、残りの道のりをのんびりいこう。

 ところで、露天風呂と野天風呂の違いを知っている人はいるだろうか。ちょっと調べてみたところ、厳密な違いはないらしい。露天も野天も意味合いとしては同じだけれど、使っている漢字にこめられたニュアンスの違いをぼくは独自に感じている。いずれも「天」を使っているため空の下という共通項はあるけれど、たとえば、露天は隠すもののない“露わな状況”であり、野天は自然そのものに包まれた“野にある”環境である。となると、野天のほうが露天よりもワイルドだということになる。

 さて、みなさんはどう感じるだろうか。実際に雲上の湯に浸かりながら、本沢温泉が“野天風呂”と名付けられた理由を感じてみてもらいたい。