早池峰山(はやちねさん)は標高1,917m。日本百名山の一つに挙げられ、北上川の東側に連なる北上山地の最高峰である。
人気の山だけに登山ルートはいくつかあるが、「小田越」から山頂へ向かうルートは、比較的短時間で森林限界を超え登頂できる。ダイナミックな山岳景観と数多くの高山植物の花々、その名に“早池峰”を冠す固有種の「ハヤチネウスユキソウ」など、希少な固有種が見られることで人気を集めており、遠方から訪ねる登山者も多い。
梅雨へ戻ったような天気が続くなか、天気図と睨めっこしつつ、どうにか登山日和となりそうな一日を狙って出かけてみた。
■森を抜けると景色は一変!
「小田越」登山口からの登山道は木道で始まる。森に足を踏み入れ、辺りを漂う濃厚な森の香りをたっぷり吸い込み深呼吸した。続いて緩い傾斜の山道、さらに2つ目の木道を過ぎ、しばらく登り続けるとやがて森から出た。
ここまで小田越からわずか30分ほど。森林限界を超えると一気に景色は変わった。岩とハイマツで構成されるまるで高山の趣きだ。この唐突な景色・環境の変化はこのルートの大きな特徴だろう。
■次から次へと登場する花々! 白く輝くハヤチネウスユキソウ
この辺りからは高山植物の種類も豊富で、次から次へと現れる可憐な花々に目移りして、つい足を止めて見入ってしまう。ナンブトウウチソウ、ナンブトラノオなどの固有種、キンロバイやミヤマアズマギクなども多く見られた。
登山道に沿って点々とミネウスユキソウが咲いていたのだが、標高が上がるにつれ、いつの間にかお目当てのハヤチネウスユキソウに変わっていた。大きくふんわりとしており、全体が白く薄い毛で覆われた、瀟洒な気品を感じさせる花。岩と草原の作り出す景色とよく似合う。まるで本場ヨーロッパアルプスのトレッキングに来たかのようだ。
さらに今回は、五合目で出会ったチシマフウロの群落が印象的だった。ちょうど山頂の岩稜帯が背後に聳えており、日本離れした雰囲気にすっかり見惚れてしまった。
■傾斜も強く高度感のある岩稜帯!
早池峰山は蛇紋岩という岩で構成されている。これが高山植物の宝庫になっている要因でもあるのだが、この岩は滑りやすいのも特徴だ。頻繁に足が置かれている場所は緑色になっており、美しいが靴のグリップが効きにくい。足運びはくれぐれも慎重に……。
稜線に出る直前にはハシゴがかかった岩壁や狭い岩場もあるので十分に注意が必要だ。下りはとくに転倒しやすく大きな怪我につながりやすい。すれ違いのタイミングなどにも配慮したい。