春が訪れ、夏に向けて山へ登る人もどんどん増えていくだろう。(百名山などの)ピークハント。美しい山野草、高山植物の花を楽しみに登る。非日常の世界でのリフレッシュ! 運動不足の解消……。登山の楽しみ方は人それぞれだ。

 そのなかに、ヒマラヤなどの高所への登山や未踏の山のピークを目指し、難易度の高いルートをクライミングし、限界に挑む登山者たちもいる。一般に親しまれているレジャー要素の強い登山からは縁遠い世界。なかなか経験することのできない登山のスタイルだ。

 便利な日常から切り離された過酷な環境に身を投じ、挑戦を続ける登山家は何を魅力に登っているのか? 一体どんな“世界”を見ているのだろう?

 生存を拒むような、研ぎ澄まされた厳しくも美しい景色。高所ならではの体験談などをテーマに、精力的に活動を続けるアルパインクライマーの三戸呂拓也氏に語ってもらう(シリーズとして連載していく予定)。

■ヒマラヤ・高所登山の世界! 未踏峰の存在

凍りついた川から望む、未踏峰サミサール  ©ISHII SPORTS

 標高8,000mを超える山は世界に14座、7,000m峰、6,000m峰となると数多く、それらの峰々は、いわゆるヒマラヤ山脈(パキスタン・インド・中国・ネパール・ブータンにまたがる)やカラコルム山脈(パキスタン・インド・中国の国境付近)に多い。

 標高が上がれば空気中の酸素の量が少なくなるのは、多くの人が知っていることだろう。さらに気象条件も平地では想像もできないほど厳しいものとなる。

 その秘境の山域には「未踏峰」と呼ばれる山が(山頂まで誰も登っていない)いまだに存在する。登られていない理由には、単純に難関ということだけでなく、政治的・宗教的な理由も介在している。

■人跡未踏のピーク! 未踏峰への憧憬

未踏峰ではなくなった瞬間。サミサール山頂にて。気温はマイナス30℃  ©ISHII SPORTS

 なぜ過酷な条件の未踏峰、未踏ルートにあえて向かうのか。理由は人それぞれだが、その魅力は冒険要素が強いこと。

 既に登られているルートは、自分ではない誰かが発見したルートである。海外の著名な山の多くは、ルート取りが決まっており、危険個所を調べることができ、キャンプ適地もわかる。何より、そのルートは人間が登れることがわかっている。

 未踏峰や未踏ルートには、決まったマニュアルなどはない。安全なのか、この部分の壁は乗り越えられるのか、それを想像しながら準備し、答え合わせをする。過酷な環境でのそれは、これ以上ない冒険である。そして仮に登頂できた時、そこから見る景色は、まだ歴史上自分たち以外誰も見たことのない景色なのである。それは未踏ルート上でも同様であり、私はその景色に出会えることが未踏峰や未踏ルートに挑む大きな魅力であるように思う。

 最近はそれらの情報を得る手段も増え、未踏峰や未踏ルートにチャレンジするチャンスは増えていると思う。しかし、それらを見つけ出すためには、視野を広く持ち、想いを馳せ、アンテナを張り続けねばならない。それは容易なことではなく、私にも足りない部分。未踏峰に2度登頂しているが、いずれもチームメイトが見つけ出し、想いを馳せていた山である。

 ちなみに近年は、その国の登山協会が登山を許可する未踏峰リストを発表することもある。