一般的には地上より山の方が天気が悪いことが多い。だが、登山をしていると、山の麓の方では霧(ガス)に覆われていても、標高を上げると雲の上に出て青空が広がっている。そんな体験をしたことがある人は多いのではないだろうか。眼下には雲海が広がっている。

 青空と雲海の狭間では、ごく稀に、条件が整ったときだけ見ることのできる、まさに“奇跡の絶景”と出会えることがある。

 雪山登山中に、チンダル現象による妖艶で幻想的な世界に出会い、写真に収めることができたので紹介したい。

※ 画像処理によって作ったものではなく、肉眼でも同様の光景が見られた。

■刻一刻と変化する! ドラマチックな七変化

冬の栂池自然園は広々とした雪野原となる。小蓮華山の山頂から雪煙がたなびく。左奥は白馬岳

 長野県小谷村、栂池高原スキー場から白馬乗鞍岳にかけてのフィールドは、一年を通じて僕が足繁く通うフィールドだ。この日も雪に覆われた栂池自然園、楠川源頭付近で撮影をしていた。

 最初に気づいたときは「きれいだな」という程度だった光景は、霧の動きに合わせて徐々に光の筋が伸びていき輝きを増した。そのうちに光は虹のように色づき、霧の濃度に合わせて妖艶にゆらめくその様子は、まるでオーロラのよう。踊るようにたゆかう霧の濃淡、さらに形容しがたいほど妖しく色めいている。稜線の樹々の影によって、いっそう印象的に演出されていた。

 場所を移動すると稜線と樹々の形の違いで、また別の表情を見せてくれる。消えたかと思うとふたたび発生する、ドラマチックな変化に目が離せなかった。

■出会える条件について考察!

楠川上流部。左岸側から谷を望む。足元が雲海との境界

 雲海の境界線付近であればいつでも見れるわけではない。この日は山すそ、谷間には濃い霧が立ち込めていた。上空は澄み渡った青空で、白馬の稜線を越えて風が吹きおろし、湧きあがった霧を散らせている。おぼろげなその境界線。そこに昼でも低い真冬の光が差し込むことで、光芒・チンダル現象が起こっていた。低い気温と湿度のバランスも重要な条件だったのだろう。

●チンダル現象とは

 微粒子からの光の散乱現象のこと。今回はエアロゾル状態の大気の光芒で、下に向かって光が差す「薄明光線」の逆パターンだ。詳しくは、【コトバンク】『チンダル現象』https://kotobank.jp/word/チンダル現象-98717を参照されたい。ミー散乱、レイリー散乱。