■僕を育ててくれた天竜川

 僕の実家が愛知県だったこともあり、比較的行きやすくて夏でも下れる天竜川はよく通った。初めて自分のカヤックを購入し(2人乗りのポリ艇。パックラフトの10倍の重さだった)、デビューさせたのもこの川だった。当時の仲間たちと車2台で下流の穏やかな静水域に行き、わずかな距離を何度も何度も往復しては下った。たったそれだけで本当に楽しかった。やがて徐々に距離を延ばし、船明ダム下〜天竜川ラブリバー公園間の約12kmを下った時は、果てしない達成感を味わったものだ。

 下流域で経験を積んでからは、天竜ライン下りと同じ時又港〜唐笠港間に挑戦した(「港」と付くのは観光和船の船着場だから)。和船を横目にカヤックを漕いでいると、恥ずかしさと優越感が入り乱れた不思議な気持ちになったものだ。

 初めて下る渓谷の川では、両岸に岩壁がそそり立っていて、緊張と恐怖と好奇心と冒険心が入り乱れた素晴らしき感覚も味わった。外界の音は遮断され、ただ川と風の音と鳥の声が支配する世界。まだ多感な若者だった僕には、十分すぎるほどの満ち足りた時間だった。

天竜ライン下り。観光和船が通る川は夏でも下りやすい

 若者らしいくだらない失敗もたくさんした。2人乗りのカヤックだったのに、友達分のパドルを忘れて“鍋のふた”で漕がせたことがあった。当たり前だがその推進力は貧弱極まりなく、そのくせ体力の消耗スピードは凄まじいという画期的な漕法だった。でも、こんな失敗すら、この頃はただただ楽しかったのだ。

これも青春の1ページである……

 やがて多くの経験を積んだ後、急流で知られる鵞流峡(がりゅうきょう)へも挑戦した。何度もスカウティング(上陸して岸から下見すること)を重ね、心臓をバクバクさせながら下ったのを覚えている。今思えばストレートでなんてことない瀬なんだが、当時の僕にとっては大冒険だった。

疾走感あふれる急流の鵞流峡! 爽快しかない!