<大分県・猪群山 前編はこちら>

 猪群山(いのむれさん)の山上にあるストーンサークルの環の中で、2時間ほど過ごしただろうか。石の配置を見たり、石そのものを観察したり、周辺の山々を眺めたり。ウロウロして、コーヒーを淹れて、座って飲んで、またウロウロして……。その間、誰も登ってくることはなかった。ああ、なんて贅沢な時間だろうか。

 それにしても松本清張はここで何を感じ、何を思い、何を得たのか。猪群山を題材にした作品はなさそうだし、同行した考古学者とともに「ストーンサークルかどうかは微妙」という報告をしたという。確かに石の並びは整然としていたわけではなく、現地にある図面を見る限り周辺の遺構自体が楕円状の土塁となっていて、それが山城跡のようにも見える。あるいはやはり祭祀の場か。

 面白いのは、古事記などの記紀神話に登場する山幸彦という神(一説には浦島太郎のモデル)が龍宮から持ち帰った「潮盈玉(しおみつたま)」、「潮乾玉(しおふるたま)」を置いたのがこの神体石で、その先っぽの窪みに溜まった水は潮の干満にあわせて満ち引きする、という伝承があることだ。ストーンサークルといえば空の天体との関係性を想像するのだけれど、この伝承に基づけば「海」にも関わりがあることになる。山の上で、潮の干満。んー、ナゾだ。謎だけど好きな感じだ。

 と、そんなことに思いを巡らせていると、次第に空が淡く黄色に移り変わっていく。春の九州ゆえ黄砂のせいかと思いつつ、太陽の傾きもその一因だった。時刻は残酷なまでに正直で、黄昏に向かっていることを告げている。もうすぐ落日だ。