■爽快な水路をいく
万水川のスタート地点は、実はどこにでもありそうな水路なので若干拍子抜けする。しかしこの日常的な水路からスタートするおかげで、この先に待ち構えている非日常感をより濃厚に感じることができる。まさに、ギャップ萌えというやつである。
ちなみにこのスタート地点は結構水流が早いため、初心者の人は乗り沈に気をつけよう(※乗り沈=乗り込むときに転覆すること。本人は必死になるが、見てる方は爆笑して盛り上がる)。ここで乗り沈すると、そこそこの距離を流されることになる。高速道路にうまく合流できない系の人にとっては、ある意味で、ここが一番の核心部だったりする。
しばらくスーッと流れるような快適な時間が続き、これはこれで結構楽しい。厄介な岩などもなく、特に初心者の人にとってはただただ楽しい区間になる。途中途中に小さな瀬もあるため、ちょっとしたアトラクション気分も味わえるはずだ。
余談だが、昔この水路を下っていた時、毎回必ず上流から何かしらの野菜が流れてくるという不思議な体験を味わった。後にも先にも、ナスやきゅうりと一緒に川を下ったのはここだけだ。おそらく上流部に野菜の洗い場があるのだと思う。美しい湧水の川ならではの生活の匂いである。
水路はやがて、安曇野わさび街道にかかる橋をくぐっていく。するとさっきまでの水路の雰囲気が一変し、美しい森の中をいくジャングルクルーズのような様相を呈していく。
ここから先が万水川の真骨頂の区間。川下りの人たちからは“ミニ釧路川”と呼ばれ、原生林の川をいくようなワクワクが待ち構えている。そしてその中には、世界のクロサワこと黒澤明監督が惚れ込んだ、美しき日本の原風景的な光景も展開していく。そして、わさびあり、スイーツあり、清流あり、開放感ありのバラエティ豊かな旅が始まるのである。
<後編へ続く>