■食べることで土地との関係を深める
野生食材は風景の見え方も変える。ただの巨岩が岩に着く貝類の漁場になり、リーフの切れ目は根魚の巣になり、波打ち際の海浜植物はサラダに見え始める。用足しに森に入れば、目は立ち枯れに生えるキクラゲを探すだろう。
その土地の食物を食べることは、その土地そのものを摂り込むことでもある。ただ通りすぎるよりも、関係性は何倍も深くなる。
そして、食物を探すことは、遠い先祖たちの感覚を呼び起こす体験でもある。狩猟採集生活が営まれていた時代、食物を探すことは最大の関心事だった。また、現代においても、人間以外の野生生物は摂餌に多くの時間を使っている。
自力で採集した食物を焚き火で調理して食べることには、生物としての素朴な喜びがある。現代のアウトドア界で焚き火料理の人気があるのは、先祖たちの重ねてきた経験も影響しているだろう。
旅の道具と食材を外部から持ち込んでいる限り、旅行者はそのフィールドで異物であり続ける。現地のものを摂り込むことで、初めて生き物としての関係性が土地と結ばれる。しかし、土地の生産力以上に収奪しては本末転倒だ。資源量に配慮しながら、負荷をかけない採集を心がけたい。
■採集は一日にして成らず
風景の中から獲物を見つけ出し、採集し、食べられるかどうかを見分けられるようになるには時間がかかる。いちばん簡単な習得方法は、詳しい人とともに歩くこと。 食材が好む環境や、似ている種との見分け方、 食べ方などを効率よく覚えられる。
独学するなら、手引きとなるのは図鑑類だ。多くの本が環境別に紹介しているので、自分が訪れる地域・環境に則したものを入手したい。
しかし、数gでも荷物を軽くしたい歩き旅では重量の負担が大きい。最近は複数の図鑑をオンラインで参照できるサービスやアプリもある。電波が入る地域なら選択肢の一つになるだろう。