■桃源郷を目指して

 川に漕ぎ出した瞬間、果てしない浮遊感が襲いかかる。今まで体験したどの清流とも、どこか性質が違う清冽さがそこにはあった。ミネラルウォーターよりもキレイなんじゃないか? ってくらいの水の上に浮かぶ幸せ。これは体験したものにしかわからない感覚だろう。

清冽すぎる世界。心までも洗われるよう

 明治初期の人たちが、皆こぞって松田優作になってしまった意味がよくわかる。これで太陽が上がって日が差し込んだら、この美しさはどんなことになってしまうのか? その時こそがまさに「仁淀ブルー」の瞬間になるのである。

 川自体は水量は少なく、想像通り所々は底を擦ってしまう状況。しかし軽量なパックラフトなので(約3kg)、ヒョイっと持ち上げて乗り越えていけばいいだけのこと。従来の重いポリ艇カヤックではなかなかできない川旅のスタイルが可能なのだ。

 やがて僕は素晴らしいプライベート清流ビーチに到達した。そこは何かの絵画か、ファンタジーの世界のように美しい世界だった。その場所を自分の力で見つけ出せたという喜び、しかも想像を超えるほど美しい場所だったという感動。それは登山のピークハントとは全然性質の違う達成感だった。

絵画のような世界。ついに辿り着いた桃源郷

 僕はきっと小さい頃、このような光景を絵本とかで見たのかもしれない。以来、ずっとこうした場所を探し求めて川を旅して来た気がした。僕はこの場所で長い時間を過ごし、飽きることなく、この宝物のような川を眺め続けた。

 太陽が上り、間もなくこの深い谷に日が差し込もうとしている。いよいよ仁淀ブルーとの邂逅の時が近づいていた。

<後編へ続く>