数えきれないほどの低山を歩いてきた中で、特に興味をそそられる山岳が密集する国東(くにさき)半島は、ぼくのお気に入りのフィールドである。

 大分県の北東部に位置するこの半島は、海に突き出した掌のような形をしている。のどかな低山と鋭い岩峰とが同居していて、その対極的な風景のギャップが面白い。野道を歩いたかと思えば岩を渡り、低い山の上からえげつないほど切り立った谷を眺める。そんな冒険心と旅心が刺激される低山がひしめき合う地。だから、ここにしかない独特の風景の中で楽しむスリルに富んだハイクに期待し、何度も足を運んでしまうのだ。

国東半島最高峰の両子山を中心に、全方位へ谷筋が延びる

 その中心にあるのが国東半島の最高峰・両子山(ふたごさん・標高720.6m)で、ここから全方位に延びる放射状の谷筋は、なんとも言えない複雑さと美しさ。その谷には「六郷」と呼ばれる6つの郷があり、「満山」と呼ばれる仏教寺院が潜んでいる。それが国東半島で独自に発展した山岳宗教文化「六郷満山」だ。なにやら神秘めいた山域なのである。

 そんな神秘に魅せられたこと以外にも、足しげく通う理由のひとつに巨石や奇岩の存在がある。

 岩石には、人を惹き付ける特別な力があるように思う。たとえば、この地域一帯にはものすごい磐座(いわくら。神の依り代で、信仰の対象となる岩のこと)や、山中にひっそり佇むナゾの巨石が点在していて、人と石とを繋ぐ目に見えないなにかを感じるのだ。

 鬼が築いたと伝わる長い石段を肩で息をしながら登る山も印象的だし、度胸の必要な石造りの架け橋を冷や汗を垂らしながら渡る岩山も思い出深い。六郷満山の山岳宗教文化を形成する摩崖仏も見事だった。とにかく、いたるところで石の力を痛感する。

 そんなわけで、日本各地の数ある魅惑の低山の中でも、ナゾの巨石パワーを放つ「ストーンサークル」で知られる豊後高田市の猪群山(いのむれさん)は面白い存在だろう。