今までの私は日帰り登山が主なスタイルだった。以前は登山は危険なものという印象しかなかったのに、山の魅力を知った途端、こんなに楽しい遊びがあったのか! と心から感激し、今ではもっと早く知りたかったと悔しさもあるほどだ。いつもは日の出とともに登り始め、日暮れまでには下山する。それも楽しいし、絶景には変わりないけれど、昼間の山の姿しか知らない。まだまだ見たことない景色がいっぱいあるのに……。

 いつかは山の上でテントを張って、星空のもと眠る……。 この上ない贅沢Timeにとにかく憧れるようになっていた。日の出が見たい! 夕日に染まる山を見たい! 満点の星空を見たい! 山登りを始めたばかりでこの貪欲さ。気づけばテントとシュラフ(寝袋)を買っていた。自分でもその行動力に驚く。そして日帰りでは行けない山でテント泊する! と決めた。

■日帰りでは困難な山を選ぶ。狙うは五竜岳!!

 五竜岳は日本百名山の一つで、後立山連峰にある標高2814mの山。私が住む長野の町からも、鹿島槍ヶ岳と並んで美しく聳える姿が見える。子どもの頃から見て育った山々をぜひ登りたいと思い、まずは五竜岳を狙うことにした。どのルートから登っても時間がかかる山だから、テント泊が適している。今回選んだルートは、白馬五竜スキー場のテレキャビンを使って遠見尾根から五竜岳、唐松岳、八方尾根へと抜けていく縦走コースの1泊2日だ。

 けれどもコロナ禍でテント場は予約が取りにくく、夏に登りたかったが季節は秋に……。ただ、そこは気にしない! なぜなら、時間をかけて情報を集めるうちに、紅葉の時期もおすすめだと知ったからだ。秋の遠見尾根を歩けば、カラフルな彩りの山々がきっと迎えてくれるはず! そう期待を膨らませていた。

小遠見山にて。初日は霧の中で展望がなく残念だったけど、明日に期待!

 待ちに待った登山当日。残念なことに歩き出しのアルプス平駅からずっと霧に包まれてしまい、展望がほとんどないまま五竜山荘へ到着してしまった。けれど、いつもの日帰り登山なら、景色が見られないとつまらなくて退屈な山行だと思うのに、今回は、

「明日がある!」

 と、真っ白な世界を歩くことも全く気にならなかった。これは初めての気持ちで新鮮な感覚だ。普段とは段違いの荷物の重さも楽しいくらいで、

「一歩が重いな〜」

そう感じながらも、

「こんなの初めてだ〜」

という気持ちの方が強い。そうやって楽観的にいたら、

「長いぞ〜 遠見尾根は!」

と聞いていたのに、すんなりと楽しく登れてしまった。

■景色の望めないテン場ですることは?

もうちょっとで完成......

 霧で真っ白なテン場に立つ。テン場より少し上にある五竜山荘も見えない状況だったが、それも気にならない! 初めて自分のテントを張るという作業が楽しくて、充実していて最高だった。幸い風は穏やかだったので作業はしやすかった。天気が良ければ初日に五竜岳を登ることも考えていたが、全く視界が開けないのでそれはやめた。

翌日。「山が好き酒が好き」Tシャツを着て、五竜岳を眺める!

 五竜岳を選んだもう一つの理由が、私にぴったりな「山が好き酒が好き」Tシャツ(五竜山荘でしか手に入らない)だ。

「絶対! 絶対! 欲しい!」

 と思い購入した。五竜岳を背景に着る。このひとときにすごく憧れていた(普段着ることはないけど……。 持ってる人はどうしているんだろう?)。 

 さぁ、欲しかったTシャツもゲットし、今日することは一つ! 居酒屋テントの始まりだ! ここまで頑張って運んできた食べ物を少しずつ開けて、山荘で買ったビールをいただく! この時に売っていたのが「信州の星空に乾杯」のパッケージがインパクトあるサッポロ生ビール黒ラベル! 

「おいしかったぁ♪」

 パッケージもここにふさわしい! 調べてみたら、「※中味は通常と同じです。長野限定発売」とのこと。なるほどなるほど。

 山の上にいる! 初めてのテント泊! 色んな要素があってのおいしい最高のひと時だ。

白いベールに包まれた五竜山荘のテン場

 テントにずっとこもっていたが、夜中に一度外へ出ると視界が開けていた。そこには月明かりで光る雲海が広がり、その上に月が大きく見えた。月から目をそらすと満点の星空の下に一人の時間……。

「これが見たかった!」

 しかし、もう10月初めで気温が低い。初めてのテント泊にこの寒さは堪える。テントに戻ってもなかなか熟睡が出来ない、隣のいびきも気になる……。でも明日は日の出を見たいから早く休みたい……。焦ると余計に眠れない……。風も物凄く強い。

「テントは大丈夫かな? 飛ばされないかな?」

感動と興奮、緊張もしたそんな夜だった。