■縦走初日

左:今にも突き破りそうな落雪跡。閉ざされた南アルプススーパー林道を延々と歩く。右:真っ暗なトンネルに浮かび上がる大きな氷柱

 山屋さんなら分かると思うが、「ガッシャブルム」という100ℓサイズの大きなザックを担いで、夜叉神トンネルを歩き出した。

 毎回、歩き出しのトンネルが一番怖かったりする。見事な氷柱が暗闇に垂れ下がるのを見て、ヘルメットを被り、林道脇の防護ネットを今にも突き破りそうな落雪跡の前を小走りで抜ける。登山口のあるき沢橋までも気は抜けない。

 池山吊尾根下部の義盛新道もアイスバーンで慎重になったが、御池小屋付近の森に入ってやっとホッとした。無雪期にはツガやシラビソと苔が、このあたりだけ特別美しかったのを思い出す。朝一に森の中を散歩すると色々な足跡があちこちに延びていて、姿はないけど、気配を感じられて嬉しくなった。

池山御池小屋周辺の森に朝日が差し込む
森の中に延びる足跡

■縦走2日目。北岳から農鳥小屋へ

風も穏やかなボーコン沢の夜。北岳の肩から月が昇る

 この後ボーコン沢を過ぎて、北岳山荘に泊まることも考えたけど、やはりボーコン沢ノ頭に宿を取ってしまった。とにかく、ここは冬だけの特別な場所だと思う。バットレスに連なる間ノ岳と農鳥岳のラインも美し い。

 狭間の時期は夜が静かなことに驚いた。もう少し前の時期に訪れていたときは、毎回人型に雪で押し潰されそうな夜を過ごしていたのに、月明かりに浮かぶバットレスをのんびりと眺め眠りにつく。 翌日は、八本歯や北岳直下から山荘への大トラバースが待ち受ける。山頂からは稜線の先に間ノ岳が大きく見える。先を考えて少し不安になるが、必死に大トラバースを終えると、真っ青な空の下、足取りが軽くなっていく。雪もしまり、風も穏やかで、次々に現れる見事なシュカブラを楽しんだりして、間ノ岳を越えて農鳥岳を目指した。

西陽に照らされ浮かび上がるシュカブラ