その時なにが起きたのか? ニュースで聞く雪崩事故はいまいちよくわからない、と思う登山者へ
■漠然とした雪山の危険だけじゃわからない
ニュースで聞く雪崩事故は、いつどの山で雪崩がおきて、誰が巻き込まれた、という報道だけ。漠然とした雪山の危険だけが取りあげられて、山を知らない人(主に家族)からは過度に心配される。雪山で遊ぶ私たちはどんなことに気をつければいいのか。どのような雪崩の危険がその時にあったのか。家族にどういうふうに安全に気をつかっているか。それらを伝えるためにも、もっと知りたいと思うあなたへわかりやすく解説したい。
では、「日本雪崩ネットワーク」による、3月14日に発生した乗鞍岳雪崩事故調査報告を読んでみよう。
https://snow.nadare.jp/news/2021/000034.html
■日本雪崩ネットワークの事故調査報告とは?
「日本雪崩ネットワーク」は、全国5つの山域で国際標準の形式の雪崩情報をだしている唯一の団体で、私自身、この団体の会員としても活動している。https://snow.nadare.jp/news/2021/000034.html
前述の報告は、ガイドなど常に現場で働いている雪崩スキルのある会員が、現地での調査と関係者からの聞き取りを行い、どのような雪崩事故であったのかが詳しく書かれている。雪崩について学んだことがない人には、内容も使われる言葉も専門的でわかりづらいと思うので解説を試みよう。
内容は、事故概略、雪崩データ、行動、捜索救助、補記の順に5項目あるが、今回は雪崩データの種類に注目したい。
■雪崩と一言でいっても、いろいろな種類がある
雪崩事故があったときに、場所の他にまず知りたいのは、種類と規模である。その2つがわかれば、その時、どんな雪崩の危険が高まっていたかを知ることができ、自分の山行を振りかえることができる。
事故となった雪崩は「ウインドスラブ」
この雪崩は、風で移動した雪がたまり、板状の性格を持った積雪層を作ることで危険が生じる。危険な理由は2つ。1つは、つくられて間もないウインドスラブは割れやすいこと、もう1つは、急激に重さが加わるので、それがつくられる斜面積雪は不安定になりやすいこと。そんな訳で私は行動前からの風速と風向を気にしている。
■ウインドスラブはどこにできる?
ウインドスラブは風下斜面にできる。避けるためには、状況に気をくばり、周囲の観察をする目を養うことが大事だ。小枝が揺れる程度の風が吹き、雪面の雪が移動している様子に気づいたら、ウインドスラブの危険を頭におもい浮かべよう。注意深く観察すれば、あなたがそこに到着する以前に吹いた風の痕跡も見つかるかもしれない。こうした周囲の状況に注意を向けることが、ウインドスラブの雪崩に遭わないための第一歩である。
4月に入り山麓は気温が上がるが、高山帯はまだまだ冬だ。異なった種類の危険が同居した山を行動する悩ましい時期である。けれども春と冬の両方の表情を持つ山は魅力的で、旅するようにロングツアーを楽しめる。私の好きな季節である。