「山小屋の管理人、まだ募集してますか?  女性でも出来ますか?」

 2020年4月。山小屋の管理人募集という情報をHPで見かけた私は、思わず役場に問い合わせの電話をかけていた。

 私はいつも割とあと先を考えない。その時気持ちが動いた方にふらりと動いてしまう。それは短所でもあるけど、長所でもあると自分では思っている。でもたまに「ああ、ちょっと早まってしまったな」と自分の決断に不安になったりもする。でも、それでいて案外うまくいくことも多い(と思っている)。

■まずは自己紹介をしてみます

軽い気持ちで始まった山小屋生活も気がつけば長くなった

 私のことを少し。小宮山花。32歳。長野県の果樹園の長女として生まれた。母はよく私と乳母車に乗る妹を連れて、山の畑まで散歩に連れて行ってくれた。キラキラした木漏れ日の射し込む道が、どこまでも続いている。幼少期の記録はほとんどないのに、それだけはよく覚えている。そして大人になっても、その景色はいつも私の心をほっとさせてくれる。汗ばんだ顔で笑う当時の私たち姉妹の写真は、今まで生きてきた中で一番よい顔をしていると思う。

 小学校では学有林遠足があった。学校が保有する約8haの山林に行き、鹿の食害から新芽を守るためにペットボトルをかけたり、キノコのコマ打ちをしたりする行事だ。わざわざ歩いて山に登って作業するなんて……と文句を言いたくなったけど、身体を動かした後に食べるお弁当はとても美味しかった。真四角の茶色い二段の全く可愛さの要素のないお弁当箱。下にはぎっしりとご飯が、上段にはぎっしりとおかずが詰まっていた。笹の皮に包まれたおにぎりも好きだったな。

 これが幼少期の自然や山との記憶。山に登るようになったのは、ずっとあと。大人になってからの話だ。