日本の山岳紅葉を代表する涸沢カール。「涸沢の紅葉を見ずして穂高を語ることなかれ。」ダントツの知名度と人気を誇る景色とは!!

■山岳紅葉の代名詞、涸沢カール

涸沢カールの紅葉と山岳風景。薄氷張る涸沢池より

 9月に入ると高山帯では徐々に秋の気配が漂い出す。まず森林限界より上でウラシマツツジなどの草紅葉が始まり、さらに冷え込むと、樹木の葉が鮮やかに色づき紅葉の見頃を迎える。ダケカンバの黄色の中にナナカマドの赤(これが重要!)、ハイマツの緑、配色のバランスが絶妙なのが涸沢カールの特徴だ。広いカール一面がカラフルに彩られる様子はとても華やいだ雰囲気で、見ているだけで心躍らされる。その背後には日本アルプスを代表する穂高の山並み。そそり立つ岩稜帯と艶やかな紅葉とのコントラストが圧巻だ。
 ベストシーズンは9月下旬〜10月上旬。秋と言っても下界ではまだまだ夏の続きのような時期だが、稜線には雪がいつ降ってもおかしくないのがこの頃。運がいいと、新雪まばゆい山並みに紅葉と青空が組み合わさった、「三段紅葉」に出会えるかもしれない。

■絶景に出会うための道のりは・・・

紅葉の梓川と河童橋

 気になるコースタイムだが、上りの片道が約6時間(ただし休憩時間は含まれていない)となっている。ただしこれは登山経験が充分にある、いわゆる健脚の登山者の場合だ。「上高地バスターミナル」から歩き出し、「横尾山荘」までは平坦な道を行く。その先は横尾谷に沿って登山道らしい山道となる。テント泊装備や重いカメラ機材を背負って登ると一日かかると思った方がいいだろう。ベストタイミングの涸沢は非常に混雑するので、早めの計画と行動が成否の鍵となる。

■カール内に2軒ある山小屋とテント村

涸沢カール。涸沢ヒュッテより、テン場、涸沢小屋、その奥は北穂高岳

 麓からの日帰りは難しいので、一般的には泊まりになる。山小屋は「涸沢ヒュッテ」と「涸沢小屋」が近い距離で向かい合っている。石積みの重厚な要塞のような「涸沢ヒュッテ」。カールの底にあり、紅葉と穂高の岩稜を見上げるような景色に迫力がある。北穂高岳南稜の下、一段上がった場所に建つ「涸沢小屋」は、広いテラスがあって眺めがいい。2軒の山小屋の間にあるテン場は、山岳エリア随一を誇る広さがある。紅葉のベストシーズン、天気に恵まれた休日には、1000張り近く、張りきれないほどのテントで埋めつくされるときも。紅葉に負けじとカラフルなテント村となるので、日が暮れた後、テントの明かりもフォトジェニックだ。

■その名の通り。景色が魅力のパノラマコースだが

パノラマコースより見る紅葉の涸沢カールと穂高の稜線

 下山には上りのルートを引き返す他に「パノラマコース」がある。涸沢カールを一望でき、槍ヶ岳も見ることができる風光明媚な登山道だ。下りで利用すると新村橋を経て徳沢へと合流するのだが、実は『山と高原地図』(※1)では破線(※2)で表記されている。このルートは遅くまで雪渓が残るので、登山道の整備がされるまで通行禁止となっている。際どいトラバースや急な下りが続き、ひと筋縄にいかないルートなので、山慣れした人以外は使わない方がいいだろう。

※1 昭文社刊行の登山やハイキングの定番地図。50年以上のロングセラーで、執筆者の実踏調査により毎年改訂されている。
※2 一般登山道が赤い実戦なのに対し、赤い点線(破線)で表現されているルート。難易度が高いことを示しているが、急登や転滑落のリスクが高い、沢沿い、整備状況がよくない、など様々な理由がある。