■アウトドアが立ち止まっても、振り返ってもいいことを教えてくれた

普段は大雑把だがこういう作業の時はとても繊細。なのだとか

—ライターの仕事を始めたのもその頃ですね。

 モデルついでに原稿も、という仕事をたまにいただいてました。当時、友人とブランドを立ち上げてお店も作ったのですが、結果的に失敗して大きな借金を背負ってしまったんです。借金返済のために、倉庫でも働く悶々とした日々。もう極度の人間不信でしたよ。そんなときに、みかねた友人が誘ってくれて、渋々初めて山登りに出掛けました。

現在は全国各地のキャンプや焚き火イベントから声がかかるようになった

—初めての山登りはどうでしたか?

 それまでは、完全に山登りをバカにするタイプでした。地味だし、辛そうだし、根暗な感じがして……。でも、実際は見事にはまってしまいました。

—どういった部分に惹かれたのでしょう?

 山にいると、立ち止まったり、振り返ったりすることが多々あります。街にいるとそうしたことを忘れてしまい、がむしゃらに突っ走って失敗することもありますよね。「疲れたら休む」、「周りが見えなくなったら立ち止まる」、「同じ過ちを犯さないように振り返る」。山登りを通して、そんな当たり前のことに気がつかせてもらいました。

■アウトドアで仮面はかぶれない

「どんなに嫌なことも時間が経ったら去っていく。我慢すべし」と焚き火から学んだ

—その後、徐々にアウトドアの仕事が増えたのは、何がきっかけだったのでしょう。

 ちょうど同じ頃、高橋庄太郎さんというライターさんと久しぶりの再会を果たしました。庄太郎さんは、実は僕がモデルになった時にメンズノンノの編集者だったんです。再開した時の庄太郎さんは登山業界ではカリスマになっていました。「いつか一緒に山に登って誌面に出たい」というモチベーションが仕事の支えになりました。

——身近に大きな目標があったことが、すごく励みになったのですね。

 数年後にやっとその願いが叶いました。下山した際に握手をしたんですが、正直泣きそうになりました。大袈裟ですが、この歳でも夢は叶うんだと思いました。

揺らめく炎は刻一刻と姿形を変え続ける。いつまでも見飽きない

―アウトドア業界で働くようになって、ファッション業界との違いを感じる部分はありましたか。

 仮面をかぶり続けないといけないのがファッション業界で、仮面をかぶりたくてもかぶれないのがアウトドア業界。自然を相手にすると自分の体力や技術が試されるので、常に素の自分でいられるところでしょうか。

—なるほど。街での生活より自然体でいられる場所を見つけたと。

 しんどかった時期は飲み歩いてお酒に逃げていました。お酒は目の前の問題を一瞬だけ忘れさせてくれるけど、結局何も解決してくれない。アウトドアでは、目の前で起こることを自分の力で解決しないと先に進めないし、解決した力は身についてく。そういったところが、アウトドアを始めて僕自身が変わった部分ですね。

<後編に続く>

 

焚き火の本

¥1800(税抜)

山と溪谷社刊

好評発売中!