いつか熊野古道を歩いてみたいというハイカーに向け、熊野古道アンバサダーを務めるぼくが、その歩き方を提案する連載の第3弾。前回は、熊野古道の入門コースとして、滝尻王子から熊野本宮大社までを歩く定番ルート「中辺路」を案内した。

 そもそも熊野古道とは、紀伊半島の各地から聖地・熊野三山(田辺市の熊野本宮大社、新宮市の熊野速玉大社、那智勝浦町の熊野那智大社のこと)に向けてつくられた、いく筋もの道のこと。ぼく自身、とくにメインルートの中辺路はもう何度も歩いているが、折に触れて他のルートを歩くことも楽しんでいる。

 今回は、中辺路から派生した、いくつかの“サブルート”を紹介したい。

◼️️【北郡越】田辺市中心街から川沿いに滝尻王子へ

稲葉根王子付近の水垢離場

 滝尻王子は熊野九十九王子のなかでも格式の高い「五体王子」のひとつで、ここが熊野三山の神域へと入っていく主な起点となる。現代の中辺路歩きは、滝尻王子から熊野本宮大社まで歩くのが人気で、世界中からハイカーが集まってくる。

 滝尻王子までは、紀伊田辺駅からバスで向かうのが一般的だけれど、当然ながら昔は歩いた。この区間も自分の足で歩きたい、という人もいることだろう。

 田辺の市街地から滝尻王子に行く道は、主に2つある。そのひとつが富田川沿いに歩く「北郡越(ほくそぎごえ)」である。「ほくそぎ」という集落を越える。スタート地点は、五体王子のひとつでもある稲葉根王子。ほぼ平坦な道のりを約13km、5時間ほどかけて歩き、滝尻王子をゴールとする。スタートとゴールを五体王子で結ぶのが、このコースの特徴だ。

素朴な道に、暮らしと祈りの風景がある

 道としては、公道と自然道がミックスする素朴な雰囲気。主に川沿いを歩くため、水辺に近づいたり、視界が広がったり、橋を渡ったりと、風景に変化があって楽しい。道中にはいくつかの集落があり、石仏が点在し、暮らしの気配が感じられる。随所に熊野古道の魅力を味わうことができる区間だ。

 ゴールの滝尻王子には、情報収集に役立つ熊野古道館がある。これから歩く道の予習もできるし、すでに歩いた道の復習にもなるから、ぜひ立ち寄ってみよう。

◼️️️【潮見峠越】田辺市中心街から山を越えて滝尻王子へ

潮見峠越の風景

 もうひとつが、潮見峠越。北郡越えが川沿いなら、潮見峠越は田辺の市街地から山を越えて滝尻王子へと向かう道で、こちらは田辺の海側に視界が開ける展望ポイントが特徴となる。

 これから熊野本宮大社へ向かう人にとっては、海の風景とのしばしの別れとなり、逆に熊野本宮大社側からくる旅人にとっては、山ばかりの風景が一変してようやく海を望める場所でもあるのだ。

ひるね茶屋は癒しと絶景の休憩スポット

 スタート地点となる下三栖(しもみす)は、紀伊田辺駅からバスで25分ほど。長尾坂の登り口を経て潮見峠を目指し、滝尻王子へと下る道のりとなる。距離は15kmを超え、時間はこちらも5時間ほどが目安となる。

 急な上り坂となる終盤は、ひるね茶屋でひと休みしたい。ここはベンチやトイレのある絶好の休憩スポットで、田辺の市街地の向こうに青い海を見渡すことができる。銀杏の木が見事で、紅葉の季節になると黄色い落ち葉が目に眩しい。

 ひるね茶屋の先からは道がゆるやかになり、捻木の杉を通過すると、ほどなく潮見峠だ。下り坂に入ったら鍛冶屋川方面に向かい、覗橋を渡ると滝尻王子は近い。

 ちなみに、中辺路ルートは滝尻王子を起点とすれば1泊2日で歩くことができるが、滝尻王子まで歩く場合はもう1日必要となる。